今月5日に迫ったアメリカ大統領選挙。史上まれにみる大激戦の行方はどうなるのか?サタデーステーションは、世論調査で僅差の接戦を繰り広げる激戦州で、特にカギを握るとされる人たちを取材しました。(11月2日OA「サタデーステーション」)
■両陣営が激しく火花 住民も二分
報告・若林奈織ディレクター(米ペンシルベニア州)「あちらトランプ氏の大きな広告が立てられています」
「カマラ・ハリスと書かれた看板が立てられています」
サタデーステーションが向かったのは、アメリカ大統領選で“最重要”とされる、ペンシルベニア州です。
報告・若林奈織ディレクター(米ペンシルベニア州レディング)「こちらの家には『トランプ支持』と書かれています。お隣は『ハリス支持』です。そして、またお隣は『トランプ支持』です」 住宅の前に掲げられた「トランプ支持」のサイン(ペンシルベニア州レディング) この記事の写真は11枚 ハリス支持の住民
「彼氏はトランプ派なので、政治の話はしません」
トランプ氏か、ハリス氏か、現地は“真っ二つ”。
トランプ支持者「彼(トランプ)は反移民だ!よく考えろ!彼の妻も移民なのに!」 ハリス支持者
「そうか?もっと言ってみろ!」
トランプ氏が銃撃されたのもペンシルベニア州。
トランプ前大統領「塩が大好きだ。おっと、こぼしてしまった」 マクドナルドでバイト体験をするトランプ氏
マクドナルドでポテトを揚げたのもペンシルベニア州。この激戦州の中でも特に注目を集めている人たちがいました。
■急増するラテン系住民 勝敗を左右
最初に出会ったのは、ペンシルベニア州で理髪店を経営しているサミュエルさん(47)。両親がドミニカ共和国出身のラテン系アメリカ人です。弟とともに投票先を決めきれていません。
サミュエルさんの弟「今のところトランプもハリスも説得力に欠ける」
ラテン系アメリカ人・サミュエルさん
「彼らが発信する情報の中で、何を信じて、何を信じないか、自分で判断しないといけないね」 投票先に迷うサミュエルさん(左)と弟
実は今、ペンシルベニア州では、中南米などにルーツを持つラテン系アメリカ人が急増。そして彼らが、大統領選の結果を左右すると言っても過言ではない状況になっています。
大統領選は、各州に人口比で割り当てられた「選挙人」がいて、その州で勝った候補が原則、“総取り”する仕組みです。勝敗が読めない「激戦州」7つの中で、最も選挙人が多いのが、ペンシルベニア州。その有権者の中でラテン系アメリカ人は6%ほどですが、浮動票も多いとみられていて、両陣営も重要視しています。
ラテン系アメリカ人・サミュエルさん「私の一票で、世界情勢を左右する人物が決まるかもしれません」 「見て!ラテン系に力を入れているって!」
取材中も、ちょうどテレビで、ハリス氏がラテン系を意識した発言をしていました。
ハリス副大統領「ラテン系アメリカ人の投票はとても重要です」
もともと、ハリス氏の民主党は移民に寛容な政策を掲げており、多くのラテン系アメリカ人が支持してきました。一方のトランプ氏は…
トランプ前大統領「移民たちは犬やネコ食べている」
「不法移民の多くが人殺しだ。凶悪な遺伝子がアメリカに入り込んでいる」
移民について、過激な発言の連続。ラテン系アメリカ人がトランプ氏を支持する理由は無いように見えます。しかし、ここにきて“異変”が起きていました。
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■“反移民”のトランプ氏を支持 移民の本音は■“反移民”のトランプ氏を支持 移民の本音は
トランプ氏は、移民への“差別発言”で批判が集まる中でも、ラテン系アメリカ人の支持を伸ばし続け、10月に入るとペンシルベニア州の支持率は逆転しました。何が起きているのでしょうか?取材からラテン系アメリカ人の本音が見えてきました。
自宅に招いてくれたのは、トランプを支持するラテン系アメリカ人のダニエルさん。ベネズエラからの移民です。8月に、なんと、トランプ氏の集会で壇上に招かれ、スピーチを任されました。
ラテン系アメリカ人・ダニエルさん(8月 トランプ氏の集会で)「私たちはベネズエラのような道を歩んでいます。そして、私たちがその道を避けることができる唯一の方法は、トランプを再び大統領にすることです」
トランプ前大統領
「ワォ!すばらしい!」 トランプ氏の集会で演説した際の映像
訴えたのは、移民問題ではなく、経済政策の重要性でした。ダニエルさんの母国・ベネズエラでは2018年、100円だったものが1年で268万円になるという、ハイパーインフレが起きました。アメリカでも物価の高騰が問題となっていますが、ダニエルさんは、トランプ氏なら対処できると考え、支持を続けています。
トランプ支持者 ラテン系アメリカ人・ダニエルさん「彼が当選して政策が実行されれば、インフレは収まるでしょう。時間はかかると思いますが」 ベネズエラからの移民 ダニエルさん
移民でありながら、移民問題よりも経済を重要視するダニエルさん。トランプ氏の「移民はペットを食べている」などの発言については、どう思っているのでしょうか?
トランプ支持者 ラテン系アメリカ人・ダニエルさん「トランプの言い方は少し粗く、誤解を生むこともあります。トランプは不法移民の中でも犯罪者に焦点を当てているだけです」
普段はパイロットとして世界を飛び回っているダニエルさん。今は、空き時間にスーパーの前を歩き回り、トランプ支持を訴えています。トランプ氏の立て看板を欲しがるラテン系の住民の姿も目立ちました。
トランプ支持者 ラテン系アメリカ人・ダニエルさん「数年前は笑顔で話を聞いてくれる人はいませんでした。ほぼ民主党支持だったので」 "トランプ支持"の看板を受け取るラテン系住民
■ハリス氏の集会にも…勢いに乗るトランプ陣営
報告・若林奈織ディレクター(米ペンシルベニア州ステート・カレッジ)「トランプ氏を乗せたとみられる車がペンシルベニア州の集会会場に到着しました。警察車両が連なり、厳戒態勢が敷かれています」
実際に、トランプ熱の高まりを感じる場面もありました。
報告・若林奈織ディレクター(米ペンシルベニア州ステート・カレッジ)「トランプ氏の集会が行われるんですが、すでに満員となっていて、多くの人が入場できなくなっています。列がどんどん後ろに伸びています」 トランプ氏の集会にできた長い列
ハリス氏がテレビ出演のため、ペンシルベニア州に来た際にも…
報告・若林奈織ディレクター(米ペンシルベニア州アストン)「ハリス氏の会場入りを待つのは、ハリス支持者ではなく、トランプ支持者たちです」 ハリス氏を待つトランプ支持者
「ハリスに歓迎していないことを伝えるんです。ここはトランプの国です」 ハリス氏の収録会場に駆け付けたトランプ支持者
熱狂的な支持者たちとともに勢いに乗るトランプ氏。
■トランプ氏の母校ではハリス派が目立つ
報告・若林奈織ディレクター(米ペンシルベニア州フィラデルフィア)「ペンシルベニア州には、トランプ氏の母校ペンシルベニア大学があります」
構内にあるアメフトの試合会場でも学生たちが投票を呼びかけ、関心を集めていました。
ペンシルベニア大の学生(21)「ペンシルバニア州は激戦州なので、投票は選挙に大きな影響を与えます」
選挙のカギを握るラテン系アメリカ人からは、“先輩”であるトランプ氏よりも、ハリス氏を支持する声が目立ちました。
ペンシルベニア大経済学部の学生(21) ラテン系アメリカ人「ハリスはトランプに、「母校ですら、あなたの経済政策に反対だ」と指摘していました。その通りで、恥ずべきことです」 ペンシルベニア大数理経済学部の学生(21) ラテン系アメリカ人
「多くのラテン系アメリカ人は民主党に投票すると思います。両親が移民で、苦労してきた背景があるので」
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■「ゴミの島」発言で“ラテン票争奪”が過熱■「ゴミの島」発言で“ラテン票争奪”が過熱
投票日目前で注目を集めているのが、ペンシルベニア州のラテン系アメリカ人の有権者の中で、半分以上を占める、プエルトリコ系の人たちです。
プエルトリコにルーツを持つメリッサさん(54)は、プエルトリコ料理店を経営していますが、トランプ氏の忘れられない言動があると言います。
ラテン系アメリカ人 メリッサさん「ハリケーンでのプエルトリコへの対応も酷かったです。無知で無神経なことを言います。私たちのことが嫌いなのよ」 ハリス氏を支持するメリッサさん
アメリカ自治領のプエルトリコをトランプ政権時代に襲った大型ハリケーン。停電が1年近くも続き、およそ3000人の犠牲者が出ました。
さらに今週、トランプ支持者による差別発言が…
トランプ支持のコメディアン トニー・ヒンチクリフ「海の真ん中に“ゴミ島”がある、確かプエルトリコって言ったかな」 「ゴミの島」発言が波紋
多くのラテン票を失いかねない“ゴミ島”発言。トランプ氏は火消しに追われています。
トランプ前大統領「ラテン系、プエルトリコ系のコミュニティーをこれほど愛しているのは私以外にいません」
しかし、ここでバイデン氏が余計な一言。
バイデン大統領「私が目にする唯一のゴミはトランプの支持者たちだ」
今度はハリス氏が火消しに追われました。
ハリス副大統領「はっきりさせておきます。誰に投票したかで、その人を批判することには強く反対します」
トランプ氏は、当初の大ピンチをチャンスに変えるべく、急きょ、ある物を用意。
トランプ前大統領「私のゴミ収集車はどうだい?ハリスとバイデンのために作りました」 ゴミ収集車に乗るトランプ氏
投票日を目前にして、混迷の度合いが一段と深まっています。
【取材後記】
約1週間、ペンシルベニア州での取材を終えて印象に残ったのは、「トランプ支持者の熱量」だ。ハリス氏の番組収録会場にも駆けつけ、“トランプコール”をする姿は、まるでお祭り騒ぎのようで印象的だった。
さらに意外だったのは、トランプ支持者たちが周りに意見を押し付けるような形ではなく、「あくまで私の意見」として訴えている点だった。これは日本で感じていたトランプ支持者の印象と大きく違った。
そして、日常に「選挙の話題」があることも驚きだった。理髪店では、経営者が18歳の研修スタッフとガザ紛争やウクライナ侵攻について議論していた。特にラテン系の人々は、自身や家族がアメリカに移住した経験があり、また今回の選挙でラテン系が注目され「一票の重み」を感じているからこそ、選挙への関心が高く、アメリカの未来を真剣に考えているようだった。
アメリカ国内だけでなく、世界にも影響を与える大統領選の行方。結果によっては、生活が一変する人もいるかもしれない。今後も大統領となった人物の動向に注目したい。
(テレビ朝日「サタデーステーション」ディレクター 萩原誠悟 若林奈織)
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