27日投開票の衆院選で、台湾に住む日本人が直面する「投票の壁」がある。在外投票でよく使われる現地の大使館での投票ができないのだ。
世界の注目を集める台湾海峡情勢への対応も選挙では問われており、現地の日本人からは「自分や家族の安全を左右するかもしれない選挙に参加しやすくしてほしい」との声があがる。
「海外にいると、日本人であることを強く意識します。政府が外交問題で明確に方向性を示してくれないことがはがゆい」
福井幸子さん(68)=台北市=は結婚を機に1983年から台湾で暮らす。政治への関心は高いが、20年以上投票していない。
2000年に導入された国政選挙の在外投票制度には、大使館や領事館などで投票する「在外公館投票」▽有権者自身が日本との間で郵便で投票用紙をやり取りする「郵便等投票」▽一時帰国して投票――の投票方法がある。21年の衆院選(比例代表)の在外投票では約92%が在外公館投票を利用していて、最も一般的だ。
台湾の在留邦人は2万人を超えるが、日本は台湾との間に正式な外交関係がなく、公益財団法人「日本台湾交流協会」が実務関係を担う。台北と南部・高雄にある協会事務所が邦人保護やパスポートの更新などを担当している。ところが公職選挙法では在外公館のみを投票所の条件としているため、対象外となってしまうのだ。
郵便投票は可能だが、日本で暮らしていた市区町村の選管に郵送で投票用紙を請求して取り寄せ、投票先を記入して返送する手続きが煩雑で、今回のように選挙期間が短い場合は間に合わない可能性もある。福井さんも1度郵便投票をしたが、面倒な手続きに閉口して利用しなくなった。
大手メーカー駐在員の男性(55)は赴任後初となる投票の機会を生かすつもりだった。だが、首相就任から衆院解散・総選挙まで戦後最短の早さだったことで、関西地方の自治体に請求した投票用紙を17日時点で受け取れていない。
男性は「台湾には『在外公館』がないから投票所を設置できない、というのはしゃくし定規にみえる。できるだけ選挙権が損なわれないような仕組みを考えてほしい」と話した。
そもそも郵便投票の制度を巡っては、台湾以外の国や地域で暮らす在留邦人からも使いにくいと指摘されている。「海外有権者ネットワークNY」の竹永浩之共同代表は日本や諸外国で郵便サービスが低下する中、今後は制度としてむしろ劣化すると指摘。マイナンバーカードが海外転出後も利用できるようになったことなどを踏まえ、在外投票にネット投票を導入することを提言している。【台北・林哲平】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。