河野太郎デジタル相(当時、左)とタブレットで署名を交わすブルトン欧州委員(当時、域内市場担当)=2024年4月30日午後0時26分、岡大介撮影

 欧州連合(EU)の欧州委員会のブルトン前委員(域内市場担当)が9月16日、突如辞任して注目を集めた。2期目に入ったフォンデアライエン欧州委員長が新たな欧州委人事案を発表する前日のできごとだった。フォンデアライエン氏が権力基盤を強め、対立していたブルトン氏を追い落としたとも報じられる。ただ、巨大IT企業との対決で存在感を発揮したブルトン氏の不在が響く事態もありそうだ。

 仏経済・財務・産業相や複数の大企業の経営者を経験したブルトン氏の発信力は、欧州委の閣僚にあたる委員の中では際立っていた。例えば7月、欧州委は、X(ツイッター)が違法コンテンツへの対応が不十分だったと指摘。Xのオーナーであるイーロン・マスク氏は投稿で欧州委との「密約」を明らかにするとして訴訟をちらつかせた。しかし、ブルトン氏は「どうぞ、お好きなように。『密約』など絶対に存在しない」と一歩も引かずにやり返した。

 ロイター通信などの報道を総合すると、フランスは当初、自国に割り当てられた委員にブルトン氏を再任するつもりだった。だが、リベラルなブルトン氏と対立してきた中道右派会派出身のフォンデアライエン氏がマクロン仏大統領に、希望する担当ポストを与える見返りにブルトン氏を選出しないよう突きつけた。それがブルトン氏の怒りを買い、辞任につながったとされる。

仏大統領も譲歩か

ブルトン氏は「速報:次期欧州委のポートレート」として白地を額装しただけの写真をX(ツイッター)に掲載した。2期目を迎えたフォンデアライエン体制への皮肉とみられる=Xより

 1期目の承認投票の際には連立会派内から造反者が出て、フォンデアライエン氏はぎりぎりで過半数を確保し就任した。その後はウクライナへ侵攻したロシアや、安値攻勢で域内市場を席巻する中国に対する「欧州の結束」を訴えて求心力を高め、危なげなく再選した。「フォンデアライエン氏は2期目に入り、自分の色を出す」。ある欧州外交関係者はこう予測していた。それが人事でも発揮された形だ。

 押されたマクロン氏は結局、セジュルネ仏欧州・外相を次期委員に選出した。産業などの重要分野を担当することになった。だが、39歳と若く、目立った実績もないセジュルネ氏がブルトン氏のように個性や存在感を発揮できるのかは不明だ。

 ブルトン氏は悲観的なようだ。9月16日に「次期欧州委のポートレート」と題し、何も描かれていない画布が額装された写真をXに投稿した。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。