訪米中の岸田文雄首相は11日(日本時間12日)から南部ノースカロライナ州を訪れる。国賓待遇の訪米では地方視察が通例だが、同州が選ばれたのはなぜか。日本と同州の関係や、11月の米大統領選を巡る日本やバイデン政権の思惑を探った。【リバティー(ノースカロライナ州)で秋山信一】
州都ローリーから車で西へ約1時間。緑豊かなリバティーの町を走ると、突然、トラックが行き来する広大な工場の建設現場が目の前に広がった。作業員らに安全を呼びかける看板の下には赤い文字で「トヨタ」と記されている。近くに住む自営業のベスティ・グレイさん(52)は「工場ができれば雇用が増える。トヨタは地域住民にも配慮してくれるので歓迎している」と話した。
トヨタは2021年、ここに車載用電池工場(25年操業開始予定)を建設すると発表した。電気自動車(EV)などの需要拡大を見据えた追加投資も発表し、23年10月には総投資額が約139億ドル(2兆1000億円)に到達。敷地面積は東京ドーム約14個分の約65万平方メートルで、5000人以上の雇用を生む「州史上最大の投資案件」(ロビンソン在ローリー日本名誉領事)となった。
225社以上の日本企業が進出
同州で日本企業の進出が本格化したのは1980年代からだ。
州立大など主要3大学に囲まれた「リサーチ・トライアングル・パーク」は先端技術の研究開発が盛んで、医薬品やバイオテクノロジー関連の投資が活発になった。近年は車載用電池産業が集積する「バッテリーベルト」の一角となり、自動車関連の投資も拡大。州経済開発機構によると、225社以上の日本企業が進出し、3万人以上を雇用。売上高2000万ドル以上の企業は202社(21年)で、英国やドイツを抑えて国別で最多になった。
日本企業がこれほどまで続々と進出する理由は何なのか。
「強固で多様な労働力が州の強みだ。(成長が著しい)米南東部でも最大の製造業の労働力を有している」。サンダース州商務長官はそう強調する。州立大などでの高度な研究開発に加え、産学連携や起業支援も活発だ。2年制公立大学では職業訓練コースが組まれている。州内の米軍基地からも毎年約2万人が退役などで民間に移るため、人手不足が問題になっている米国でも「適材適所の労働者を確保しやすい」(州関係者)。
また、法人税率は2・5%で現行でも周辺州の半分以下だが、30年にはゼロに減らす方針で、日本企業関係者も「サポートが手厚い」と語る。
岸田氏の同州訪問は「日本企業による大型投資が行われている」(林芳正官房長官)ことが最大の理由だ。米国の一部に対日貿易赤字などに不満もある中、対米投資が米国で雇用を生んでいることをアピールする考えとみられる。岸田氏は12日にトヨタの工場の建設現場やホンダの小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」の工場を視察し、現地の日本企業関係者らとも懇談する予定だ。
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