中国の習近平国家主席(右)と、ドイツのショルツ首相=北京の人民大会堂(ロイター)

自由や民主などの普遍的価値観を共有できるかどうかは、外交・安全保障だけでなく経済においても重要な視点だ。ただ経済外交では、理念よりも実利を優先する現実的な面もある。

先に北京で行われた中国の習近平国家主席とドイツのショルツ首相の首脳会談もそうだった。「中独は世界2位と3位の経済体であり、両国関係を強固にして発展させる意義は2国間の関係を超え、ユーラシア大陸や世界全体にも重要な影響がある」との習氏の言葉には、中独協力がもたらす恩恵の大きさを殊更に強調する思惑がみてとれる。

ドイツは日本を抜いて経済規模が世界3位になったが、国内経済は低迷している。最大の貿易相手国、中国の存在は大きく、中国はこれを巧みに利用しているのだろう。実利で相手国を取り込んで民主主義諸国の対中包囲網に楔(くさび)を打つ。これが中国の戦略である。

では、中国の経済力になびくかのような各国の動きはどうみるべきか。日米欧では経済安保の観点から、過度の対中依存を減じるデリスキング(リスク低減)が必要だという認識が共有されている。中国頼みをさらに強め、その覇権主義追求を後押しするようなら、もちろん問題は大きい。

だが、国内の企業活動や雇用拡大に資するよう経済外交を展開すること自体はどの国にもみられる国益の追求だ。この現実を端(はな)から否定するのは難しい。

注目はやはり米国の動きだ。往々にして米国は露骨に実利を優先する。例えばトランプ前政権は2020年1月署名の米中貿易協定で、米国が問題視していた中国の構造問題に目をつむり、対中輸出拡大という目先の成果に飛びついた。国内事情優先の保護主義傾向はバイデン政権にもある。

今秋の米大統領選が近づけば、党派を問わず、日欧などとの連携が脇に置かれる傾向が強まる可能性がある。日本製鉄のUSスチール買収にトランプ氏が反対し、バイデン大統領が慎重なのも、過剰生産が問題視される中国企業に日米の結束で対抗する意義が軽視されている表れだろう。

米国が自国の都合ばかりを押し通すようになると日本経済には大きなリスクとなる。日本はこれを避けるため、経済安保を踏まえた日米連携の意義だけではなく、米国が日本から得られる経済的恩恵を具体的に語れるかが問われよう。

興味深いのは、外務省による令和5年度の対日世論調査だ。貿易と投資、雇用創出の3項目について、米国の有識者に「米国経済に最も貢献している国」を問うたところ、いずれも日本が初の1位となった。

4年度は3つとも中国やカナダなどを下回る4位だった。その後に日米間の経済を深化させる特別な出来事があったわけではないのに、全てで1位になったのは「これまで日本企業が米国経済に貢献してきた実態が反映された」(外務省)ためなのか。

累積での日本企業の対米直接投資が過去10年で2倍以上に膨らむなど、これを裏付けるデータもある。ならばこれらの情報を積極的に活用しない手はない。

岸田文雄首相は先の米議会演説で投資や雇用での日本の貢献を訴えたが、これは第一歩である。次期米政権がどうなろうと、米国の経済的利益を高める上で日本の存在が不可欠なことを発信することが大事だ。(論説副委員長)

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