投開票までおよそ2カ月に迫ったアメリカ大統領選。激しい選挙戦が繰り広げられる中、支持率で見ると、撤退表明前のバイデン氏はトランプ氏を下回っていたが、ハリス氏が民主党の正式候補になると、逆転する形に。「ハリス旋風」とも呼ばれる一方、懸念されているのが、ハリス氏の経済政策だ。住宅価格の引き下げや、企業の食品に対する不当な値上げの取り締まりなど、中間層への手厚い支援を訴えたが、反発も。
【映像】ハリス氏、トランプ氏、どっちが優勢?(州別情勢)
特に物議を醸しているのが、「含み益への課税」だ。バイデン政権では、総資産1億ドル以上の超富裕層を対象に、保有する株などの含み益に対しても課税する税制案が示されていたが、ハリス氏がこの案を支持すると表明した。これに対しXなどで批判が噴出。一方、トランプ氏も「全ての輸入品に10%の関税をかける」と主張していて、貿易混乱の恐れが指摘されている。「もしハリ」「もしトラ」どちらが日本にとって良いのか。『ABEMA Prime』で考えた。
■ハリス氏の掲げる経済政策に疑問の声が続出
サンフランシスコ在住で、日米に拠点を置く企業経営者、ブランドン・K・ヒル氏は、ハリス氏の経済政策を危険視する。Xでは「これ、マジ無理。経済破綻する。資本主義が崩壊する」と投稿し、その理由として「法人税引き上げ21%→28%」は経営者として厳しい政策で、米企業の衰退に繋がること。「キャピタルゲイン増税」で企業や不動産売買が停滞し、投資家はスタートアップなどへの投資をためらうようになること。「含み益への課税」により、超富裕層の資産隠しや海外脱出が続出することを挙げる。
資本主義社会において「法人税引き上げで経営圧迫され、業績が下がれば、採用や賃上げが難しくなる」と指摘。キャピタルゲイン増税についても「スタートアップ企業を立ち上げ、ユニコーンに育てたり、M&Aしたりして、次の投資につなげる流れがあるが、そこにかかる税が上がると、エコシステムに大きな影響が出る」と語る。
含み益課税も「現金化せずとも、評価額の上昇で課税されるようになると、アメリカ経済を回している“スーパーリッチ”は、どのように資産を持ち続けるのか。海外移住の危険性もあり、富裕層だけでなく、ドミノ倒し的に中小企業の経営者や従業員まで、広く影響が出る」と警鐘を鳴らす。
アメリカ国籍を持ち、経済・政治を中心に大統領選を分析するアナリスト、ジョセフ・クラフト氏は、仮にハリス氏が大統領になった場合「法人税引き上げ」は実施濃厚とみるが、「キャピタルゲイン税引き上げ」の実施は50/50で、株価暴落の懸念を示す。「含み益に対する課税」については、実施はあり得ないとの見方で、「進歩派向けの選挙レトリックで、富裕層からの献金もなくなる。議会を通らないだろう」とコメントする。
前提として、大統領のみで経済政策は決まらないとクラフト氏は指摘。「下院をどちらの党が取れるかが重要だ。共和党が下院を取れば、民主党の経済政策は進行しにくい。閣僚やアドバイザーとして誰がつくかによっても、政策は変わってくる」と、大統領に当選するだけでは、公約が実現しない仕組みを説明する。
キャピタルゲイン増税は「バイデン氏が掲げたができていない」現状がある。「含み益への課税は論外。執行するのが難しく、心配しなくていい。せいぜい法人税の引き上げぐらいではないか」と、実現可能性は低いと述べた。
ハリス氏については、演説を見て「経済や外交に突っ込んだ話をしておらず、あまり強い政策志向を持っていないのではないか」と語る。「急に大統領候補になり、ほとんどバイデン政権の政策を引き継いでいる」と指摘した。
また、トランプ陣営の反応についても言及。「ハリス氏の経済政策はツッコミどころ満載だが、トランプ氏や共和党は不思議と批判していない。政策論争に持ち込めば、弱みを露呈させられるが、やっていないところが、トランプ氏の劣勢を物語っている。トランプ氏の減税政策にも無理がある。増税のハリス陣営との対立軸で戦えば、共和党は有利に運べるが、それができていない」のが現状だと語る。
■イメージのハリス氏?実績のトランプ氏?揺れるアメリカ国民
一般市民の反応として、ブランドン氏は「スーパーリッチから、苦しんでいる人への再分配は支持されている。富裕層から取るのは問題ないとの意見も多々ある」という。大統領選をめぐる持論は「人を選ぶのか、政策を選ぶのか。清廉潔白な人がいいのか、とんがっていても実務能力を優先するかによって判断が変わるため、悩みどころだ」と語る。
経営者や投資家の視点からは、トランプ氏の経済政策を評価している。「増税や含み益の課税はあり得ない。自分としても破綻してしまう。実現性は低いものの、その考えを持っているハリス氏がトップに就くと、経営者としては面倒なことをやられる可能性がある」と懸念を吐露した。
ブランドン氏には、トランプ政権時代に「思ったよりヤバくならなかった」との実感もある。一方のハリス氏には「『当選すれば国が良くなる』と言うが、現職の副大統領は、今やれることがたくさんある。課長が『部長になれば良い会社にする』と言うのと同じで、『今はまだ課長だから』は言い訳に過ぎない」と手厳しい評価をしている。
クラフト氏は、ハリス氏の政策が、必ずしも富裕層を狙い撃ちした「富の再分配」とは言えないと説明する。「アメリカ人の6割は株式投資をして、その多くは年金だ。キャピタルゲイン増税が年金にもかかれば、中間層への増税につながるので、現実的ではない」とした。
ウォールストリートジャーナルが8月24〜28日に行った世論調査について、「どの政策が最重要かの順位では、一番が経済政策で、移民問題、インフレ・中絶権と続く」と紹介する。「両候補に対する評価は、経済問題がトランプ51%、ハリス43%。移民問題は49%対42%。中絶はハリス氏が20ポイント優位だが、重要度と評価を見ると、トランプ氏に有利な部分がある」と着目した。
それでもトランプ氏が劣勢なのは、「政策論争に持ち込まず、誹謗中傷ばかりしている」ためだ。先の世論調査では、「大統領・副大統領としての仕事を評価」の項目もあったが、「48%対42%で、トランプ氏の評価が高い。実績と政策面で優位にもかかわらず、ハリス氏に勢いがあるのは、共和党の選挙戦略がうまく機能していないからだ」と、共和党の問題点をあげた。
クラフト氏自身は無党派層のため、どちらを支持するか悩んでいる。「一つ言えるのは、ハリス氏がまだ何もしていないこと。討論会もやらず、副大統領として大きな成果をあげているわけでもない。『女性大統領』は見てみたいが、女性のみを投票理由にはできない。これから2カ月の力量や実績を見つつ、ギリギリまで悩むと思う」。
■大統領選の結果で日本への影響は?自民党総裁選も重要に
大統領選は、日本にどのような影響をおよぼすか。クラフト氏は、ハリス氏になった場合、何をするかは読みやすいが、バイデン政権の政策を継続することで、米国経済が鈍化する可能性を指摘。中国経済が減速する中、米国経済まで悪化すると、日本の経済に大打撃を与えるという。
トランプ氏は反対に、何をするかわからない怖さがある。経済の振れ幅に着目すると、「トランプ氏の方が大きい」と予測する。「経済上昇の余地も、下落のリスクもある。新たな財務長官がドル安を誘導すると、日本にとって問題になる。また、対中関税率を60%にすると、インフレを助長し、貿易戦争を引き起こす」。一方のハリス氏は「ある程度予測可能で、振れ幅は小さく安心だ」という。
日本にとっては、どちらがベターなのか。「ハリス氏は予測できないが、トランプ氏は外交や安全保障など、前政権からある程度の予測ができる。おだてれば上機嫌になる」。トランプ政権では「懐に入り信頼を得て、助言できる立場」が重要で、前政権では安倍晋三元総理が、その立場を担った。「次の総理がトランプ氏の信用を得て、助言で誘導できるかによって、日本にとってのトランプの評価が決まる」とポイントを述べた。
その上で、総裁選が迫る自民党員に「刷新力も大事だが、大変な世の中では、経験値やアメリカと渡り歩ける総理が必要だ。バランス感覚を持って、総裁を選んでいただきたい」と呼びかける。「トランプ政権では、アドバイザーや閣僚の助言が、大きなウエートを占めていた。その中に日本の総理も入っていた」と語った。
(『ABEMA Prime』より)
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