開幕したパリ・パラリンピックのザンビア代表チームにはアルビノのアスリートがいる。モニカ・ムンガ選手(25)。アルビノによく見られる視覚障害で、女子陸上・視覚障害部門で400メートルを走る。

2020年2月、東京パラリンピックに出場予定だった彼女をザンビアで取材した。取材のメインテーマは、パラ競技ではなく、アフリカで後を絶たない「アルビノ殺し」。実際モニカも幼い頃、親戚から切りつけられたことがあった。(前編参照)

後編では腕を失った被害者や、「呪術医」らの話を通して、アルビノ襲撃の実態にさらに迫る。

アルビノめぐる“迷信” 「体」が高額で取引

ぶっといイモムシが、目の前を悠々と横断していく。1930年代のマーキュリー列車のようなシェイブ。これは何かの幼虫なのか。でも「幼虫」と呼ぶには違和感を覚えるくらい大きい。

2020年2月初旬。ザンビア東部、ムフウェの森の中のロッジ。きのう、首都ルサカに着いた我々は小型飛行機でムフウェまで移動してきた。

泊るはずだったロッジが雨季の大雨で一部水没し、急遽、空港のそばの別のロッジに泊ることになった。古い。蚊帳には穴が開いていた。

きょうはこれから車でルンダジという町のそばまで行く。そこにはミリアム・クムウェンダという21歳(当時)の女性が、母親とおじとともに、既に到着しているはずだ。

ミリアムには右腕がない。切断され、売られたのだ。理由はただ一つ。彼女がアルビノだからだ。

アルビノは生まれつきメラニン色素が欠乏している人たちで、日本を含めどこの国にもいる。視覚障害を持つ人も多いが、程度には差がある。太陽光に弱いのでケアが必要になることもあるが、それ以外は、いわゆる「普通の人」と変わらない。

しかし、アフリカの一部地域では、アルビノの体には「特別な力」があるとの迷信が存在する。そして、そのために「体」が高値で取引される。

なので、襲撃事件が後を絶たない。多くの場合、殺害され遺体が「切り売り」されるが、ミリアムは生き延びた。

ミリアムはチャマという、ルンダジからさらに北上した地区で生まれ育った。襲撃現場もそこだ。

当初は我々もチャマまで行くつもりだったが、これまた雨期で川が氾濫し橋が流されてバイクでないと到達できなくなってしまった。撮影機材を持ってのチャマ入りは困難と判断、現地のコーディネーターが手を尽くしてミリアムとその家族をルンダジのそばまで連れてきてくれた。

ミリアムは民家の軒先に、母親のビューティー(当時45)、おじのイドン(当時42)とともに並んで座っていた。

ミリアムの肌は白く、少し赤みがかかっている。髪は黄色っぽいクリーム色。オレンジを主体とした柄の半袖の服を身に着けていて、袖の部分はストライプ柄になっている。そこからのびているはずの右腕は、上腕の半分くらいのところで切断されていた。

残った左腕で時折、娘のプレーズ(当時2)を抱きかかえる。襲撃当時はお腹の中にいた。未婚の母だ。このあたりでは珍しいことではない。なおプレーズも母親のビューティーも肌の色は黒い。

挨拶をし、会いに来てくれたことへの感謝を伝える。何があったのか、聞かせてください、そう促すと、ミリアムは淡々と語り始めた。

襲撃犯の会話「右腕じゃないとダメだ」

襲撃されたのは2017年の11月のこと。数日前から予兆はあった。夜、同じ地区に住んでいる男たち3人が訪ねてきたのだ。

ミリアムは男たちに家の外に呼び出されたが、話し声を聞いた父親も外に出てきて男たちを問い詰めた。

ミリアムの父
「何の用だ」

男の一人
「タバコの火を借りたいんだ」

ミリアムの父
「タバコの火を借りにここまで来たのか?あんた、いつからタバコ吸うようになったんだ?」

男の一人
「いや、友達が…」

いかにも怪しい。父親は「何か起きたらお前らを犯人と見做す」と警告、男たちは引きあげた。

翌日、男たちは戻ってきた。またミリアムを呼び出し、一人が100クワチャ(当時のレートで950円)の現金を出して、「これで俺とヤれ」と言った。ミリアムは「何であんたみたいなオジサンと」とはねつけ、男たちは再び退散した。

さらにその翌日も男たちはしつこくやってきたが、今度は母親のビューティーに追い払われた。

そして、その次の夜。ミリアムが寝床に入っていると、またもや男らがドアをノックして「ミリアム、外に出てきて」と言う。

これで4日目だ。「こんな夜更けになんで外に出ないといけないのか」と難色を示したミリアムだったが、急に眠気を覚え、気が遠くなるのを感じた。

何かしらの薬物が使われたのだろうか。朦朧とする意識の中、布が口に突っ込まれた。目隠しはされなかった。

一人に上半身を抱えられ、もう一人に足のほうを持たれ、道まで運ばれ、地面に横たえられた。そこにはもう二人、男がいたという。そのうちの一人が刃物でミリアムの左腕を切断しはじめた。

すると別の男が「違う、右腕じゃないとダメなんだ」と言った。そして、ミリアムの右腕が切り落とされた。ミリアムは一生、隻腕になった。

男たちは切断した右腕を、持ってきていた薪の中に隠すと、ミリアムの頭や背中を刃物で何度も殴りつけ、去って行った。

暗闇の中でミリアムが痛みで泣き叫んでいると、近所の人たちが集まってきた。両親も起きてきた。取り乱す母親。父親は必死にミリアムを病院まで運んだ。

その後、実行犯4人は逮捕された。一人は教師だった。

顔を見られているのに、逃げられると思ったんでしょうか?そう問うと、「ミリアムが死んだと思ったんだろう」おじのイドンは吐き捨てるようにそう言った。

もう一人、逮捕された人物がいる。隣国マラウイのウィッチドクター=呪術医だ。
アルビノ襲撃には、伝統療法を行う呪術医が絡んでいることが多い。

捜査当局の調べでは、切断されたミリアムの右腕は、国境を越えてマラウイに持ち込まれ、そこで骨と肉に分けられ、この呪術医に持ち込まれた。

肉の部分は溶かされ、ローションのように加工されて売られたのだという。骨は証拠として警察に押収された。

実行犯に話を聞きたいと思って刑務所での面会を画策したが、実現しなかった。

「私たちは、同じ人間ですよ」

チャマのような田舎で、片腕で暮らすのは特に困難だ。農作業、炊事、洗濯、入浴、そして育児、すべてに支障が出ている。

ミリアム
「腕が二本あった頃は何でもできました。今は、全てが難しくなってしまいました」

母親ら、一緒に暮らす家族の負担も増えた。その上、再び襲撃される可能性もリアルにある。

ミリアム
「前回は放置されたのが家のそばだったので生き延びましたけど、次はどこか離れたところに連れていかれて、切り刻まれるかもしれません。そうなったら、死んでしまいます」

生まれ育った場所。でも、地域の人たちを「怖い」と感じるようになってしまった。できれば移住したい。それもこれも全て、迷信のせいなのだ。

生まれつきメラニン色素がない、というだけで、腕を切断され、不自由な生活を強いられた上、怯えて暮らさなければならない。

あまりに理不尽だ。ミリアムに、あえて聞いてみた。

アルビノに生まれたことをどう思っていますか?

ミリアム
「神の思し召しです。私がアルビノとして生まれたこと、黒い肌に生まれなかったことは」

母親のビューティーも「子供は神様からの授かりものですから」と言い、「誰にだってアルビノの子が産まれる可能性があるんですよ」と付け加えた。

犯人や、“アルビノの体に神秘的な力がある”と考えている人に、何を言いたいですか?そう問うと、ミリアムは短く答えた。

「私たちは、同じ人間ですよ。なぜ、こんなことをするんですか」

シンプルだけど、それが全てだ。ミリアムにとっては自分が一人の人間であることは自明のことだ。

犯人たちが切り取っていった右腕だって、犯人たちの腕と何も変わらない。普通の人間の腕、でも同時に、ミリアムにとって、かけがえのない腕だったのだ。

アルビノのミュージシャン「特別な力なんてウソ」

夕暮れ時のルンダジのバスターミナルで、高い天井にビートの効いたアフロ・エレクトロ音楽がガンガンに反響している。壁に即席のスクリーンが設置され、黒いキャップを被ったアルビノの男性がラップトップを操作している。

ジョン・チティ。多くのヒット曲を持つミュージシャンだ。シルキーな歌声を活かしたラブソングの一方で、メッセージソングも歌ってきた。「Ni Colour Chabe」(肌の色だけ)という曲のMVには、アルビノの子供たちがたくさん出演、その脇でジョンが歌う。

“君ができることなら僕にだってできる”
“君がなれるものなら僕もなれる”
“肌の色だけじゃないか”

同じくアルビノであるジャマイカの有名ミュージシャン、イエローマンらとアルビノ襲撃事件を非難する「Stop Killing Us」という曲を発表したこともある。襲撃事件があれば現場に足を運び、調査もしてきた。

バスターミナルではアルビノ襲撃がいかに間違っているかを訴えるビデオの上映に続いて、ジョンが集まった50人ほどの聴衆に対話を仕掛けていた。

「ビデオを見て何を思ったか、知り合いにアルビノはいるか、言いたいことがある人は手を挙げて!」

聴衆もマイクを回しながら発言する。

「アルビノの体に特別な力があるなんて嘘だ」
「(アルビノの体を使った品物のおかげで)金持ちになったと言う人は、別の理由で金持ちになったんでしょうよ」
「政府はいったい何をしているのか」

対話が一通り終わったところでジョンが一曲歌い、啓発イベントはお開きとなった。ジョンによれば聴衆の中から迷信を肯定するような声も飛んできたというが、概ね反応は良かったそうだ。

バスターミナルや市場など公の場所でイベントを開くのは、襲撃に雇われるのがこうした場所に集まる極めて「フツーの人たち」だからだが、一方で元凶はアルビノの体を「オーダーする」金持ちなのだとジョンは言う。

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