2020年から続いたオーストラリア産ワインに対する中国の高関税措置が今年3月、解除された。ニュースを受けて思い出すのは、約1年前、この措置の影響を取材するため、南オーストラリア州を訪れた時のことだ。当時、同僚からは「ワインが飲めて『おいしい』出張だね」とちゃかされたが、取材中、私は「実態」に迫れるのか、不安で仕方なかった。それほど豪ワイン業界のガードは堅かった。
先制パンチを受けたのは、市場調査などで豪ワイン業界を支える政府機関への取材だ。新型コロナウイルスの感染拡大と中国の高関税の影響を尋ねたが、後者への回答は当たり障りのないものだった。現地に足を運んだのだからと、聞き返して食い下がったが、質問を変えるよう笑顔で促された。
ワインメーカーへの取材も緊張感があった。「政治には踏み込まない」と冒頭からくぎを刺され、中国の措置に対する直接的な批判はなかった。豪産ワインが、単価の高い「贈答品」として広がる中国市場を失った影響は大きいが、インドなど他のアジア市場拡大を目指すという前向きな発言が目立った。
対応は一貫して丁寧だ。ただ、彼らの姿勢からは、豪中関係に水を差しかねない発言は控えるという決意がにじんでいた。豪州では、事実上の制裁措置である高関税のきっかけを作った保守・モリソン前政権が22年の総選挙で敗北。代わって発足した労働党政権は中国との経済関係の改善を目指し、措置解除への道筋が生まれつつあった。
さらに取材を続ける中で、その決意の裏には、彼らのプライドがあるということを知った。豪アデレード大のジェリー・グルート上級講師(中国政治)の説明を借りれば、「ワインは豪州を象徴する名産であり、それ故に高関税措置は、経済だけでなく心理的ダメージも大きかった」。彼らにとって現状の打破は、誇りをかけた闘いでもあったようだ。
記者として、ガードが堅い取材相手には泣かされる。当時の私はさぞ悩ましげな顔をしていただろう。しかし振り返ると、彼らのそうした姿勢によって浮き彫りとなる視点があった。取材には多少苦労したが、今となっては、彼らの誇りと決意の徹底ぶりに少しばかり感服する自分がいる。
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