欧州連合(EU)が中国から輸入する電気自動車(EV)に暫定的に追加関税を課す方針へ踏み切った。中国との対決姿勢を強める米国に続いて、欧州でも過度の中国依存を避ける「デリスキング」が進む流れの一環と言えそうだが、一つ懸念がある。それは、欧州が主導してきた気候変動対策への取り組みについて「やっぱり本当の目的は産業保護だったのではないか」と国際社会から疑われることだ。
深刻化する気候変動問題の改善に向け、EUはこれまで積極的に取り組んできた。自動車を巡っても2035年にガソリンやディーゼル車の新車販売を実質禁止する目標を立てている。巨大経済圏であるEUが急進的に動けば、交易関係にある他の国や地域も追随せざるをえない。こうして世界の環境・経済政策をリードする様子は、EU主要機関の所在地にちなんで「ブリュッセル効果」とも呼ばれる。
一方で、欧州以外の国や地域からは一部で「欧州は気候変動対策を口実に、域内産業に有利な方向へ経済のルールを変えようとしている」との不満がある。実は日本でも、少なからぬ中央官庁幹部がこうした疑念を漏らしている。
EUは、中国製EVの安値攻勢は中国政府による過剰な補助金を背景にしたものであり、公正な競争の結果ではないとして追加関税に踏み切った。ただ、走行中に二酸化炭素を出さないEVは欧州にとって次世代カーの大本命。「やはり重要産業の保護が本音では」と疑う声が強まる懸念はある。
気候変動問題に詳しい英シンクタンク「王立国際問題研究所(チャタムハウス)」のクリス・エイレット研究員に聞くと、中国製EVを巡るEUの動きは「優先する政策が、脱炭素から域内の産業保護や中国への過度な依存からの脱却などへと移ったことを表している」と言い切った。ただ、「それが国際社会からの信頼にどの程度影響するかは、次にEUが何をするか次第だ」とも語った。
EUが対中依存解消など他の重要施策とのバランスを取りながらも、引き続き気候変動問題に取り組む「進化」した姿を見せる可能性はある。それとも本当に変節してしまい、「やはりご都合主義だった」と国際社会から批判されるのか。EUが岐路に立っていることは間違いない。
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