ベルギーのデクロー首相(ロイター)

【パリ=板東和正】6月の欧州連合(EU)欧州議会選を前に、ウクライナ侵略を続けるロシアが欧州への干渉を強めている。露側が欧州議会の議員を金銭で買収し、ロシアのプロパガンダ(政治宣伝)を広めようとした疑いが浮上。議会選が妨害された恐れがあり、加盟国から対露制裁を求める声が上がっている。EUはロシアを念頭に干渉を各国が連携して監視する方針で一致した。

ベルギーのデクロー首相は12日、ロシアが欧州議会に介入して影響工作を試みた可能性があるとしてベルギー当局が捜査を開始したと発表した。欧州メディアによると、チェコを拠点とする親露派のニュースサイト「ボイス・オブ・ヨーロッパ」が欧州議会議員に報酬を支払い、サイトへの出演を依頼。ロシアに有利に働く発言を発信させていた疑いがある。

同ニュースサイトは2016年に創設され、ウクライナの親露派政治家、ビクトル・メドベチュク氏が秘密裏に提供した資金などで運営。欧州でのウクライナ支援の機運を後退させるような主張をしてきた。

米政治専門サイト「ポリティコ」の調査などによると、ベルギーやドイツ、オランダなどの欧州議会議員16人が、同サイトの関連動画に出演した。昨年10月に出演した議員は「ウクライナの文明が負けることを願う」と発言。他の議員も、ロシアとの戦争が起きたのは「ウクライナのせいだ」と非難したり、同国のEU加盟の可能性を否定したりした。出演した複数の議員は報酬を受け取った疑惑を否認している。

露側の影響工作を警戒したチェコ当局は同サイトやメドベチュク氏らを制裁対象に追加した。デクロー氏はロシアがプロパガンダを広め、6月の議会選で「多くの親露派候補を当選させるつもりだ」と危機感を表明。「EUのウクライナ支援を弱体化させ、戦場でロシアを有利にすることが狙いだ」と懸念を示した。ベルギーとチェコは今月16日、ロシアが議会選への干渉を行った可能性があるとし、新たな対露制裁を検討するようEUのミシェル大統領らに要求した。

ロシアは近年、欧州政治に介入する試みを強めている。今年2月には、ドイツの極右政党、ドイツのための選択肢(AfD)の連邦議会議員の顧問が露連邦保安局(FSB)と緊密に連絡を取り合っていたことが発覚。顧問はFSBの指示を受けて、独政府によるウクライナへの兵器供与の停止を求める訴訟をAfDと協力して起こそうと画策していたとみられている。

また、ラトビアのメディアは1月、同国出身の欧州議会議員が10年以上にわたり、FSBと関係を持っていたと報道。同議員は22年のウクライナ侵攻を非難する欧州議会の決議に反対していたという。

ロシアは交流サイト(SNS)や生成AI(人工知能)を悪用し、偽情報の拡散させる工作活動を拡大する恐れもあり、欧州の外交専門家は「選挙を控えるEUは多様な干渉に身構えている」と分析する。

EUは17日の臨時首脳会議後の声明で、議会選に絡む情報操作や干渉を「注意深く監視し、食い止める」と宣言。各国の当局との協力体制を構築して対応する方針を示した。

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