スイス政府の気候変動対策は不十分で人権侵害にあたるとの欧州人権裁判所の判決を受け、記者団の取材に応じる原告の女性たち=フランス・ストラスブールで4月9日、ロイター

 人権問題などに取り組む国際機関「欧州評議会」が常設する欧州人権裁判所(仏ストラスブール)は9日、スイス政府が気候変動対策を適切に講じなかった不作為が人権侵害にあたるとする、スイスの女性グループの訴えを認める判決を出した。不十分な気候変動対策が人権侵害にあたるとの国際裁判所の判断は画期的で、加盟各国の政策に影響を与える可能性がある。

 判決に法的拘束力はないが、欧州評議会に加盟する46カ国の裁判所が欧州人権裁判所の判例を重視するため、影響力がある。今後、同様の訴訟が加盟各国の裁判所で起こされる可能性がある。

 訴えはスイスの女性2500人が起こした。政府の不作為が人々の生命を熱波の危険にさらしているなどとして、これまでに国内で同様の訴えを起こし、敗訴していた。ロイター通信によると、欧州人権裁判所のオリアリー裁判長は判決理由として、スイス政府が国内の温室効果ガスの排出で「制限量を数値化しなかったこと」や「削減目標を達成しなかったこと」を挙げ、「気候変動に対する十分な措置を講じずに人権を侵害した」と結論付けた。

 欧州評議会には、欧州連合(EU)には参加していないスイスも加盟する。傘下の欧州人権裁判所では、個人が加盟国を相手に人権侵害を訴えることができる。欧州評議会が策定した欧州人権条約には、私生活を尊重される権利のほか、自国で公平な裁判を受ける権利が含まれている。

 判決を受け、スイス政府は「スイス司法当局は判決に留意する。関連機関と判決の内容を精査し、将来に向けてどのような対策を取れるか検討する」との声明を出した。【ブリュッセル宮川裕章】

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