総務省が個人情報を流出させたLINEヤフーに資本関係の見直しを求めた行政指導は、韓国では「韓国企業(IT大手ネイバー)を日本が追い出し、LINEを奪おうとしている」との文脈でクローズアップされた。保守系大手紙「朝鮮日報」が4月下旬に「日本政府が韓国を代表する企業に経営権の売却を強要するのは、韓国が敵性国であると宣言するようなもの」と批判すると、他のメディアも続いた。
韓国野党も、この問題をナショナリズムに結びつけ、対日関係を重視する尹錫悦(ユンソンニョル)政権に対し攻勢を強める材料に使った。最大野党「共に民主党」の李在明(イジェミョン)代表が、わざわざ松本剛明総務相が初代韓国統監の伊藤博文の子孫であることをLINE問題と関連付けて指摘したのも、そうした狙いだ。
4月の総選挙で与党が大敗し、世論を刺激したくない尹政権は「韓国企業に対する差別的措置があった場合は断固として対応する」との立場を強調した上で、「ネイバーの立場を最大限尊重する」とあくまで企業間で解決すべきだとの説明を繰り返した。5月中旬には大統領府関係者が「持ち分株の売却は入らない可能性がある」と韓国記者に説明し、火消しを図った。
くすぶる日本不信、過去に不買運動も
日本政府は行政指導が「情報セキュリティー上の重大な事案」が繰り返されたことに起因し、経営権を奪うためではないと説明してきた。だが、韓国国内ではこうした説明への理解は広がってはいない。一つの理由は、2019年に日本政府は「安全保障上の懸念」があったとの理由で半導体素材の対韓輸出規制を行ったが、実際は徴用工問題への事実上の対抗措置だったという直近の記憶が残っているためだ。こうした経験から日本に対する不信感が今もくすぶっている。
LINEヤフーの大株主であるネイバーは、縦スクロール漫画「ウェブトゥーン」事業などでグローバル展開する韓国が誇る大手企業だ。19年の輸出規制の際は半導体事業が韓国の「プライド」に関わる分野であることも影響し、「ノージャパン」と呼ばれる日本製品の不買運動が起きた経緯がある。
一方、ネイバー自身も微妙な立場で、問題が大きくなることは望んでいないが、同社の労働組合は経営権を失えば「雇用不安と技術の流出につながる」と反対している。そのためネイバーは交渉過程だとして、明確な方針を明かしていない。6月25日に国会の委員会でネイバーの崔秀妍(チェスヨン)代表が代表質問を受ける予定だったが、崔氏は出席を見送った。
ただ、LINE問題をナショナリズムに結びつける論調は、現時点ではそこまで韓国国民の間では大きな動きにはなっていない。韓国大手紙の記者は「不買運動時に嫌な思いをした人もいて、反省もある。特に若い人の間ではナショナリズム的な運動のうけが良いわけではない」と指摘する。韓国メディアでも「『反日フレーム』を用いても韓国の利益にはならない」との慎重な論調も出ている。
日韓関係に携わる与党の元国会議員は、「伊藤博文の話が出れば一気に関係が悪化する動きにつながると危惧していたが、実際はそうではなかった」と驚く一方で、「ハンドリングを間違えれば火がまたつきかねない」とも述べた。【ソウル日下部元美】
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