米国の首都ワシントンの連邦最高裁前で、警官隊を挟んで向き合う中絶反対派(右側)と中絶容認派=2024年6月24日、秋山信一撮影

 米連邦最高裁が2022年6月、人工妊娠中絶の権利を認める憲法判断を49年ぶりに覆し、州による中絶禁止を容認してから24日で2年を迎えた。11月の大統領選でも中絶問題は主要な争点となっているが、共和党のドナルド・トランプ前大統領(78)は中絶容認派だけでなく、中絶反対派からも厳しい視線を浴びている。

 「中絶は性と生殖に関する健康上の権利だ」。24日午後、最高裁前には中絶容認派が数百人集まり、次々とマイクの前に立った。中絶反対派も数十人が集まり、「中絶は殺人だ」と叫んで容認派の演説を妨害。警官隊が間に入って双方を引き離したため、大きな混乱はなかったが、判決から2年たった今も双方は激しく対立している。

米国の首都ワシントンの連邦最高裁前で、人工妊娠中絶に反対するデモを行う中絶反対派=2024年6月24日、秋山信一撮影

 米メディアによると、最高裁判決まで全米で認められていた中絶は50州のうち14州で禁止、7州で規制強化された。東部メリーランド州で中絶擁護の活動をするダヤ・チェイニー・ウェブさん(48)は24日のデモで「権利が侵害されたのは、トランプ氏のせいだ」と訴えた。大統領在任中、指名権を持つ最高裁判事(定員9人)の人事で、リベラル派の判事が死去した際に保守派の判事を後任に選ぶなど、中絶に否定的な3人を指名。この人事が憲法判断が覆る要因となった。

 一方、西部カリフォルニア州から来た中絶反対派の宣教師、J・C・カーペンターさん(51)は「中絶は(胎児の)生きる権利を奪うことだ。全米で禁止しないといけない」と強調した。「中絶規制は各州の判断に委ねるべきだ」とするトランプ氏を支持するかを問うと、表情をゆがめて「私の意見は違う」と語った。

 トランプ氏が連邦法による一律規制に反対するのは、女性や若者の支持が離れると懸念しているためだが、中絶反対派には「主張が弱い」と映っている。カーペンターさんは「(民主党の)バイデン大統領(81)とどちらかを選べと言われれば、トランプ氏を選ぶ。しかし、中絶は全面禁止すべきだ」と語った。

 今年4月のピュー・リサーチ・センターの調査では、中絶は▽「全て合法」25%▽「大半は合法」38%▽「大半は違法」28%▽「全て違法」8%――だった。中絶の権利擁護を掲げるバイデン氏は、自身に有利になるとみて、積極的に争点化を図っている。【ワシントン秋山信一】

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