イスラエル軍が8日にパレスチナ自治区ガザ地区の中部ヌセイラットで実施した人質救出作戦に関して、ガザの保健当局は9日、パレスチナ側の274人が死亡し、約700人が負傷したと発表した。国際NGO「国境なき医師団」は現場の惨状を「悪夢だ」と指摘する。イスラエルはイスラム組織ハマスからの人質4人の奪還で歓喜に沸いたが、国際社会からの批判が高まっている。
イスラエル軍のハガリ報道官によると、救出作戦は8日午前11時に始まった。特殊部隊がハマスの戦闘員と交戦する中、周囲には空爆を実施し、2カ所の建物から人質4人を救出した。軍は数週間にわたって作戦を準備し、訓練を続けていたという。米国はこの作戦に関して、イスラエルに情報提供をした。作戦では特殊部隊の幹部1人が死亡した。
一方、作戦実施を受けて、ヌセイラット近くにある中部デルバラーのアルアクサ殉教者病院には、パレスチナ人の負傷者らを運んだ救急車が次々と到着した。中東の衛星テレビ「アルジャジーラ」によると、負傷者の中には子どもが含まれ、国境なき医師団の医師は病院を「血の海の状態」「虐殺現場のようだ」と表現した。病院は患者たちでごった返しているという。
ロイター通信によると、ヌセイラット在住の救急隊員ジアドさん(45)は「イスラエル軍の無人機や戦闘機は、逃げようとした人々に向かって無差別に攻撃した」と指摘し、「イスラエルは人質4人を解放するために、罪のない市民を殺害した」と訴えた。
ハマスは声明で「民間人に対する虐殺だ」と非難。エジプト外務省も、今回の攻撃について「国際法に明確に違反している」と指摘し、パレスチナ人を無差別に標的にするのをやめるよう求めた。欧州連合(EU)のボレル外務・安全保障政策上級代表(外相)はX(ツイッター)に「流血の惨事は今すぐ終わらせるべきだ」と投稿した。
しかし、イスラエルのネタニヤフ首相は、解放された人質やその家族らと面会した上で「イスラエルはテロリズムに屈しない。作戦を完結し、人質全員が帰還するまで手を緩めることはない」と主張した。バイデン米大統領も人質の解放を歓迎し「全ての人質が解放され、停戦が実現するまで(支援の)動きを止めない」と述べた。
イスラエル軍は9日もガザ各地で空爆を実施。ガザ保健当局によると、昨年10月の戦闘開始以来のガザの死者数は3万7084人になった。【エルサレム松岡大地、カイロ金子淳】
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