インド下院の総選挙は5日、全議席が確定した。モディ首相が率いる与党インド人民党(BJP)は、小選挙区543議席のうち240議席にとどまり、単独過半数を割り込んだ。与党連合全体としては過半数を確保したものの、モディ氏の圧倒的な人気に陰りが見え、3期目の政権運営は軌道修正を迫られることになりそうだ。
「(与党連合の)3期目が決まったのは明らかだ」。モディ氏は4日夜、BJP本部で支持者を前にこう語り、勝利宣言した。しかし、州別では国内最多の2億人を抱える大票田の北部ウッタルプラデシュ州で議席を半減させるなど、圧勝した2019年の前回選より60議席以上減らした。地元メディアによると、与党連合全体では290議席超だった。モディ氏が約30分の演説で大幅な議席減に言及することはなかった。
一方、前回の52議席から99議席に躍進した最大野党・国民会議派のカルゲ総裁は記者会見で「国民はモディ氏に負託を与えなかった。これは彼の政治的な敗北だ」と述べた。選挙協力した地域政党の伸長も目立ち、野党連合では下院議席全体の4割を占めた。
インドは23年度の国内総生産(GDP)の成長率が8%を超えるなど高い経済成長を続ける一方、若者の失業は深刻で、増え続ける労働力人口に見合った雇用を創出できていない。
国際通貨基金(IMF)によると、23年の1人当たりGDPは中国の約5分の1にあたる2500ドル(約39万円)にとどまった。IT産業などに従事する高所得者はごく一部で、労働力人口の半数近くを占める農業や関連産業に従事する人々からは生活苦を嘆く声が上がる。
ヒンズー至上主義的な政策導入は難しく
ヒンズー至上主義団体を支持母体とするモディ政権は、人口の約8割を占めるヒンズー教徒の宗教感情に訴える政策を相次いで打ち出したが、経済的な不満を抑え込むには至らなかった。象徴的なのが、ウッタルプラデシュ州アヨディヤを含む選挙区の結果だ。今年1月、ヒンズー教徒とイスラム教徒が所有権を争ってきたモスク(イスラム教礼拝所)跡地にヒンズー教寺院が開設され、BJPは長年の公約を実現して支持を固めたはずだった。
ところが直近2回の選挙で当選した現職は、ヒンズー教徒の下位カーストやイスラム教徒を支持基盤とする地域政党の候補に敗れた。この政党は改選前の7倍超の議席を獲得した。
複数の識者によると、与党連合が大勝すれば、低い地位のカースト集団に対する優遇措置が廃止されるとの警戒感が広がったという。地元の政治ジャーナリスト、サンジーブ・アチャリヤ氏は「野党側は、与党が議席を伸ばせば憲法が改正されると訴えた」と指摘。憲法は教育や就労の際、下位カーストの人らが一定の割合で優先されるとしており「与党は否定したものの、優遇措置がなくなることを恐れた人々が野党支持に回った」と説明する。
3期目に入るモディ政権は、これまでとは一転して大きな野党と対峙(たいじ)することになる。「与党は今後、地域政党の声に耳を傾けることが求められ、思い通りに法案を通すことはできなくなる」(アチャリヤ氏)。与野党で方向性に大差がない経済や外交面での影響は限られるが、ヒンズー至上主義的な政策の導入は難しくなるとみられる。【ニューデリー川上珠実】
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