バイデン米大統領(民主党)は4日、南部のメキシコとの国境で、不法越境者の亡命申請を事実上禁止する大統領布告を出した。11月の大統領選に向けてトランプ前大統領(共和党)から「国境の混乱」を追及される中、「国境閉鎖」に方針転換することで批判をかわす狙いがある。しかし、移民に寛容な姿勢を一転させることで、民主党左派から反発を招くリスクもはらんでいる。
米政府高官によると、亡命申請の禁止は、不法越境者が1日平均2500人を超えた場合に発動される。現状は基準を大幅に超えているため、即時発動される。「閉鎖」の解除は不法越境者が1日平均1500人を下回った場合で、発動の条件より厳しく設定された。親が同伴していない子供や人身売買の被害者は例外となる。
世論調査、国境対策を支持しない69%
「トランプ氏は国境問題の解決を望まず、私を攻撃するために問題を利用しようとした」。バイデン氏は4日の演説で、国境問題の責任はトランプ氏にあると主張した。今年2月にバイデン政権と連邦上院の共和党が国境管理の強化策で合意した際、トランプ氏の横やりで破談になった経緯が念頭にある。過去最多ペースで不法越境が続く中、「我々は国境問題の責任を共有している」と強調し、政権だけの「失政」だとは認めなかった。
しかし、世論は政権の対応に問題があるとみている。AP通信などの3月の世論調査では、69%が「バイデン氏の国境対策を支持しない」と回答した。また、マーケット大学の5月の調査では、「最も重要な争点」として経済(36%)に次いで国境問題(20%)を挙げた有権者が多かった。「どちらが移民・国境政策にうまく対応できるか」との質問では、トランプ氏(52%)がバイデン氏(25%)を圧倒した。
国境問題が再選に向けた足かせになる中、バイデン氏は「国境閉鎖」というインパクトのある対応で局面の打開を図った形だ。
国境では従来、不法越境した後に亡命を申請すれば、審査中は米国内で仮放免されるケースが多かった。収容施設に余裕がないことが背景にあり、放免後は実質的に不法移民として米国内に滞在できた。しかし、今回の措置では亡命申請自体を受け付けず、出身国などに強制送還することになる。
ただ、不法越境者は世界各地から押し寄せており、予算や人員の制約から、送還が円滑に進まないとの懸念が出ている。メキシコは、自国とキューバ、ベネズエラ、ハイチ、ニカラグア出身の越境者の送還は受け入れることに同意した。しかし、最近は中国など中南米以外の出身者が増えており、どう対応するのかは不透明だ。トランプ氏の陣営は4日、「バイデン氏は実効性のない政策を発表することで、国境を安全にするふりをしているだけだ」と批判した。
民主党左派から反発も
寛容な移民政策を求める民主党左派からも反発が出ている。民主党のパディーラ上院議員は声明で「バイデン大統領は米国の価値を損ない、迫害や暴力を逃れてきた人たちに米国に逃れる機会を提供する義務を捨てた」と批判。人権団体「米自由人権協会」(ACLU)は「亡命申請の法的な権利を厳しく制約する措置だ」と批判し、訴訟を起こす方針を示した。民主党左派は政権のパレスチナ情勢への対応にも不満を募らせており、今回の措置で離反が進む恐れがある。【ワシントン秋山信一】
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