えっ! ニューチャイナタウン(新中華街)を知らないの?
タイ人の知り合いが目を丸くして聞き返してきた。口ぶりからすると話題になっているらしい。ところが、行ってみたら拍子抜けした。「なんか地味。中華街のイメージと違うけど……」
とはいえ、増え続ける中国からの移住者たちがバンコクに作り上げたこのエリアにはいま、同胞はもちろん、タイの若者も多く足を運ぶ。特に人気なのが「お一人様用本格火鍋」だ。
新中華街と呼ばれるプラチャラット・バンペン通りは、バンコク中心部を環状に囲む地下鉄路線の主要駅スクンビット駅を起点に、反時計回りで四つ目の駅にある。元祖・中華街(ヤワラー)は、逆に時計回りで同駅から六つ目。距離にして10駅約15キロ離れた二つの中華街は、見た目も対照的だ。
例えばヤワラーには、牌楼(ぱいろう)(中国式の門)やつるされたアヒル、豚の丸焼きといった世界各地の中華街で見られるシンボルがあり、多くの観光客でにぎわう。一方、新中華街にそれらはなく、どこか生活感が漂う。
春節(旧正月)の時期に訪れても、華やかな飾りより、中国語で記された不動産屋やスーパー、語学学校の看板が目に付いた。同胞向けのサービスを提供する店が多い。周辺のコンドミニアムには中国語を話す若者が出入りしていた。
いわゆる“中華街らしさ”には欠ける比較的小さな通りに乱立するのが、本格的な火鍋店だ。300メートルほどの一角に10店舗以上がひしめき、移住者たちの「憩いの場」になっている。
とりわけ人気を呼んでいるのが、一人火鍋の店だった。小ぶりの鍋が1人1台与えられ、具材を注文する形式のものもあれば、回転ずしのように流れてくる店もある。とある店をのぞくと、3人の中国人客が、それぞれ鍋をつついていた。
雲南省出身の留学生、パン・チャンモンさん(36)=タイでの通名=は「1人用がちょうどいいです。できるだけ中国人と交わりたくないので」と苦笑する。パンさんは約10年前、銀行員を辞めてタイへ。「中国の生活はストレスが多いので、戻るつもりはありません。でも、ときどき故郷の味が恋しくなる。そんなときは新中華街に繰り出します」
タイでは近年、中国のピリ辛しゃぶしゃぶ「麻辣(マーラー)火鍋」の人気が高まっていて、一人火鍋の店はタイ人の若者も引きつける。夕暮れ時に訪れると、カップルや友人らのグループが開店を待つ姿を見かけた。
動画サイト「ユーチューブ」には、中国語ではなく、タイ語で紹介する動画がいくつも投稿されている。翻訳アプリを利用したとみられる、店の看板に書かれたタイ語の不自然さを面白おかしく紹介するものもあるが、「一人火鍋なら、味の好みが異なる友人とも並んで鍋を楽しめる」「とにかくおいしい」など、総じて評価は高い。
動画投稿者の多くは、タイの若者言葉でこの街を称賛する。「プン・マック(イケてる)」【バンコク石山絵歩】
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