もし観光地で津波に見舞われたら、慣れない土地で、どこに、どのように逃げればいいのか。専門家との現地取材で見えてきたのは、逃げるに逃げられない現実でした。(5月11日OA「サタデーステーション」)
海と山に囲まれた観光地、鎌倉。観光名所は、駅周辺から海までの一帯に広がり、年間およそ1200万人の観光客が訪れます。一方でその地域の多くが、南海トラフ地震の際、津波の浸水域に想定されているのです。鎌倉市では、「南海トラフ地震」で10メートルの大津波が34分後に到達するとしています。津波の専門家、中央大学の有川太郎教授は、観光客が戻ってきた今こそ注意喚起が必要だといいます。
鎌倉を訪れていた観光客
「南海って結構場所が遠そうなイメージがあるので(津波が)来るんだなっていうのは驚き」
市は、南海トラフ地震と同じ規模の津波被害をもたらす相模トラフ地震を想定し、シミュレーション動画を作っていました。
中央大学有川太郎教授
「この辺りも十分に津波が襲ってくると思います。2メートルから3メートルくらいの浸水があってもおかしくはない」
1月の能登半島地震では、新潟県の海水浴場に2メートルほどの津波が押し寄せました。
では、海の近くにいた観光客は、どう避難したらいいのでしょうか?
中央大学有川太郎教授
「海から遠ざかるという意味では、海に対して平行に逃げてもあまり効果がないですから。なのでこちら側から(海に沿って)山に向かって逃げるというよりは、むしろやっぱりこちら側の方(駅方向の内陸)に向かっていただいた方が安全だと思います」
最寄の避難場所はここからおよそ300メートルほどの消防署で普通に歩けば、「5分」ほどで着きます。10メートルの大津波は34分後なので、十分に間に合うと思ってしまいますが、様々な課題が見えてきました。
まず課題となるのは、逃げ始めの時間です。
中央大学有川太郎教授
「3分ぐらいで大津波警報は出ると思いますから避難開始が5分後と想定するというのは妥当な数字だと思います」
揺れと同時に避難開始することは難しく、準備などを考えると早くても5分はかかるといいます。
次に、観光客はどこに逃げるべきなのか、すぐには分からないという問題です。ハザードマップでは周辺一帯が浸水域です。最寄の避難場所がどこかを知っていなければなりません。そうしている間に、思っているよりも早く津波はきます。
中央大学有川太郎教授
「津波はもっと早く来ますので10分とかそういうところで1メートル位の津波は来てもおかしくはないと思います」
有川教授が行った津波を再現した実験映像では、水の高さは40センチから50センチ、膝くらいの高さでも、一気に流されてしまいました。
そして、移動には時間がかかります。東日本大震災で津波被害を受けた地域では、避難する歩く速さが、1分で37メートルほどだったという調査結果があります。通常のおよそ半分の速さです。
ようやく、消防署の前に到着。しかし10メートルの津波の場合は、ここからさらに屋上へ駆けあがらなければなりませんが、階段の場所が分からないケースも。実際の災害時では、消防隊員は緊急出動に向かい、ここには誰もいなくなる可能性があるといいます。そして海抜17メートルの屋上に到着。しかし、ここで最大の課題があります。それは収容人数です。
鎌倉消防署 高橋署長
「850人の収容人数を予定していますが、地域の住民の方もここを目指して避難してくれる方もいらっしゃると思いますし(大勢の観光客の受け入れは)分散しないとどうしても厳しい」
年間1200万人、海岸には130万人もの観光客が訪れるというなかで、住民を含めた避難者の受け入れ態勢も重要な課題です。市では、30か所の津波避難ビルで1万5000人、公園やお寺など22カ所で25万人を分散して受け入れるとしていますが、海岸から歩いていける距離にはあまりありません。分散避難は理想ですが、長い距離の移動は危険です。
そこで、少し距離がありますが、高台の避難場所になっている長谷寺へと向かってみました。すると、避難中の危険性も見えてきました。
中央大学有川太郎教授
「海に対して並行なので、やっぱりこちら側に歩くのはどうなのかなと思う。しかもここに川があるじゃないですか。川から溢れてくることも十分あり得るので、むしろ最も推奨されないルートを通ってるかもしれません。海沿いに川沿いですから。観光客が知らない土地に来て、長谷寺に逃げたらいいんだと知って、それでルート検索して、最短ルートが出ました、それでこのルートを行きました、ということになるのが、あんまり良くないかもしれない」
多くの観光客でにぎわう中での避難について、鎌倉市は。
鎌倉市総合防災課 末次健治課長
「鎌倉市では津波の避難の誘導標識や海抜表記なども行っています。津波に関しては日本語と英語で(防災放送を)行います。早めに高台に避難して頂く。また浸水域の外に出て頂くというのが一番最初の重要な点だと思います」
◇
高島彩キャスター
「これからの季節、海辺に行く機会も増えると思いますけれども、日本は海に囲まれていますからね。海のそばの観光地は至る所にありますよね」
板倉朋希アナウンサー
「もし、南海トラフ地震が起きた場合は、館山市では最大11メートル、熱海では最大5メートル、下田では最大33メートルの津波が想定されているので、決して鎌倉市だけの問題ではないんですね」
高島彩キャスター
「もし津波が来たときに観光地にいた場合、どのように行動したらいいんでしょうか」
板倉朋希アナウンサー
「まず津波が来るとなったら直ちに高台に避難するというのが原則になってくるわけですけれども、それが困難な場合は、津波から逃れる一時避難場所として「津波避難ビル」というものがあります。このビルは鉄筋コンクリートや鉄骨鉄筋コンクリートなどの耐震安全性が確認されている構造物で、想定される津波による浸水の深さが2メートルの場合は、3階建て以上などが津波避難ビルの目安となっています。そうした建物には看板が設置されているんです」
高島彩キャスター
「家の近所で見た事ありますけれども、頻繁に見るものではないと思うんですね。この津波避難ビルというのは実際どのくらいあるんでしょうか」
板倉朋希アナウンサー
「鎌倉市の由比ケ浜周辺にある津波避難ビルの場所を示した地図になりますが、点で示された所が津波避難ビルがある場所になるわけです。海岸の近くに行きますと、鎌倉消防署などがこの辺りありますよね。この辺り全部で津波避難ビル30か所ありまして、収容人数は合わせて1万5000人だということなんですけれども、問題は土地勘のない観光客がすぐにこういった場所にたどりつけるのかどうか、なんですよね」
「改めて現場を見てみたいと思います。鎌倉市の消防署はですね、車庫のすぐ横に津波避難ビルを示す看板が設置されていますけれども、小さいので近くまで行かないとなかなか見にくいかなという感じしますよね。そしてこちらは津波避難ビルに指定されたマンションですけど、看板はというと、小さなものが入り口の右下に設置されています。別のマンションではこういった茂みの中にあるような状況です」
高島彩キャスター
「緑の中に緑ですからね、ちょっと見えにくいかもしれないですね。ハザードマップなどで事前に確認することができますけれども、いざと言うときに、この津波避難ビルの場所を知る方法というのはどういったものなんでしょうか?」
板倉朋希アナウンサー
「1つの方策として検討されているのが、東北大学大学院生の成田さんが考案した。アドバルーンなんです。デパートやスーパーの屋上に上がっている広告気球を参考に発案したそうなんです。このアドバルーンの装置は気象庁から地震や津波警報などを受信すると自動で装置が起動して、風速5メートル以下だと確認されれば即座にバルーンがあがっていくという仕組みなんだそうですね」
高島彩キャスター
「なんか目安として分かりやすいですね」
板倉朋希アナウンサー
「このバルーンの導入について鎌倉市の担当者は、風が強いとあげられないなど課題面もありますが、避難誘導の1つの方法として前向きに検討していますと話していました」
高島彩キャスター
「柳澤さん、この避難誘導の対応についてはどうお考えですか」
ジャーナリスト柳澤秀夫氏
「100点満点、万全ということは絶対にないような気がするんですよ。必ず想定外が生じますからね。ですから普段からとにかくいろんな問題点を繰り返し繰り返し洗い出して、1つ1つどうすればいいかと考えていくしかない。それの積み重ねなのかなと思いま」
高島彩キャスター
「そして観光地ですから季節や時間によってもいらっしゃる人の数が全然違いますよね」
ジャーナリスト柳澤秀夫氏
「昼間なのか夜なのか季節によって違いますからね。というか暑さによって違いますからいろんなことを想定しながらとなると、やはりこれが模範解答というのはないですよね」
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