偏見や先入観を持たずに判断した--。1966年に一家4人を殺害したとして強盗殺人などの罪で死刑が確定した袴田巌さん(88)のやり直しの裁判(再審)で、2014年に再審開始を認めた元裁判官の村山浩昭弁護士が、決定に至るまでの経緯や心情などを振り返った。4月の講演で、同裁判の弁護団に参加する水野智幸弁護士の質問に胸の内を明かした。【構成・丘絢太】
――村山さんを含めた3人の裁判官が14年の再審開始の決定を出した経緯は。
◆振り返ると(袴田さんが犯行時に身につけていたとされる「5点の衣類」の)DNA型鑑定やみそ漬け実験など、弁護団がこれまでとは違った証拠を出してくれたことが大きいですね。偏見や先入観を持たずに、「確定審はこうだった」という議論をせずに、「今の証拠はどうなのか」ということを考えました。
――注目される裁判で決定を降してつらいと思ったことは。
◆まったく思いませんでした。いろいろと言われたりすることもありましたが、私を含めた3人の裁判官の中でそういった話はありませんでした。
――衣類の色調変化に踏み込んだ判断だったが、DNA型鑑定の結果だけでも再審開始の決定を出せたか。
◆(証拠として)認められるので、両方とも書こうと思いました。DNA型の話はかなり技術的で科学者の間でも意見が割れる可能性がありました。当時も検察側はさまざまな学者の意見をぶつけてきました。それに対して色調の問題はすごく原始的な話です。みそ漬け実験などから「赤には見えない」という原始的な事実は否定できないと思い、DNA型と色調の2本にしました。
――死刑執行と拘置の停止はセットで考えていたか。
◆最初からそうだったとは答えにくいですね。いろいろな観点から考えた結果です。死刑判決を下された人が釈放されたら逃げたり、自殺してしまうのではという疑いも当然あります。しかし、袴田さんの場合は(証拠の)捏造(ねつぞう)が疑われるということをはっきりうたっています。「それでも拘置し続けるのか」ということを踏まえた決定でした。
――再審法改正の議論で裁判所に求められる姿勢は。
◆まず最高裁が自ら現在の規定では限界があるということを認めた方がいいですね。再審事件をしっかりと判断したいという裁判官も大勢います。そうした人たちがやりやすいようにするのが最高裁の役目ですね。
――現役のときはそうした声は上げなかったのですか。
◆確かに「法律が変わってくれればいいな」という思いはありました。ただ、自分の能力と努力が足りずに法律のせいにしていると思われたくなかったのがあったと思います。
――裁判官人生を振り返ると。
◆苦しい人生でした。しかし、裁判官は自分で結論を決めることができます。民事事件を担当したときには和解案を双方に提示して紛争を終わらせることもできました。たまに裁判所を去る人たちから「ありがとうございました」と言われて、「いいことをしたな」ってうれしくなりましたね。(裁判官を)嫌になって辞めようと思ったこともありましたが、結局、定年まで続けてしまいました。
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