「風呂キャンセル界隈(かいわい)」という言葉がSNS(ネット交流サービス)で広まり、X(ツイッター)で一時トレンド入りした。<面倒で入浴したくない>という投稿が発端とみられ、<わかる!>と共感する声のほか、<不潔><風呂ぐらい入れ>などの批判も相次いだ。うつ病などやむを得ない事情で入浴できない人もおり、当事者からは「入りたくても、入れないのに」との困惑の声が上がっている。
きっかけとみられるのは4月28日のXへの投稿。<お風呂に入るのが嫌すぎ>として、入浴しなくても使えるドライシャンプーを紹介した。3万以上の「いいね」が付き、引用する形で「風呂キャンセル界隈」というワードが登場した。
入浴を避けられるグッズや工夫について多くの人々が投稿して盛り上がる一方、<不潔以外の何物でもない><くさすぎて迷惑>などの批判的なコメントもついた。
30日ごろからは「うつ病風呂キャンセル界隈」というワードも同時に引用され始めた。単に入浴が嫌いな人たちと、うつ病という事情があって入浴できない人たちが混在していることに気づいたユーザーたちからは、<風呂嫌いとか不潔とかそういうことじゃないのね><頭の「うつ病」が落ちた形で(「風呂キャンセル界隈」の言葉だけが)広まってしまったのが不幸>との声も上がった。
一方で<甘えるな><風呂ぐらい毎日入れ>などのコメントも続いており、うつの経験者たちからは<メンタルを病むとお風呂も家事も何も出来なくなる。なぜ入れないか想像力を持つべき>と入浴の困難さを訴える切実な投稿が相次いでいる。
実はメンタルヘルスの「あるある」
精神疾患者をサポートする「NPO法人地域精神保健福祉機構」によると、メンタルへルスの「あるある」を約190人にアンケートしたところ、「お風呂に入るのはしんどい」を挙げた人は実に半数に上り、「片付けられない」(44%)、「トイレが近い」(43%)などを抑えてトップだった。
代表理事の宇田川健さんは、うつ病の症状を伴う統合失調感情障害を患う。「うつ病になるとまず困るのが入浴。経験者なら誰もが感じること。(今回のSNS上の騒ぎで)一般にはあまり知られていないことがわかり、驚いた」と話す。
自身も1年近く入浴する気にならず、最長で2週間入れなかったこともあった。「つらい時は、じっと寝ていたいだけ。食事はもちろん、トイレに行くのもつらい。入浴は生き延びる上で優先順位が低いんです」
SNS上では「面倒・嫌いで入りたくない人」と同列に語られているが「もともと自分は風呂好きで、通常の状態なら面倒と思ったことはない。日常生活にエネルギーを配分できなくのが、うつ。風呂だけに着目し、ちゃかすのはやめて」と求めた。
うつ病を疑うべきなのか?
府中こころ診療所(東京都府中市)の春日雄一郎医師によると、うつ病で脳の機能が低下すると、意欲が起きず、倦怠(けんたい)感も招きやすくなる。必要だとわかっていても日常生活の行動が困難になっていく。中でも入浴は服を脱ぎ、体や頭を洗い、髪を乾かすなど複数の行為が必要なため「思考力の低下によって、行動が組み立てられず挫折しやすくなる」と指摘する。
では「入浴が面倒」と感じた場合はメンタル不調のサインなのか。春日医師は「風呂に入りたくないからといって、必ずしもうつ病とは断定できない」としつつ、「疲れがたまっている可能性はある。片付けなど他のこともできず、入浴も完全にできないレベルであれば、受診が好ましい」とアドバイスする。
うつから回復したように見えても、入浴ができない状況が続くこともあるという。春日医師は「したくてもできない状態。周囲も入浴を勧めるなど強い声かけは控えて」と注意喚起した。【稲垣衆史】
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