テレビで当選確実のニュースが流れ、喜ぶ斎藤元彦氏の支持者ら=神戸市中央区で2024年11月17日午後8時1分、北村隆夫撮影

 「躍動を止めない」――。兵庫県議会から全会一致で不信任決議を突きつけられた前知事、斎藤元彦氏(47)は選挙戦でこう訴え続け、知事に返り咲いた。インターネット上で広がった支援の声が、大きなうねりとなった。選挙戦は、ネット交流サービス(SNS)で誹謗(ひぼう)中傷や真偽不明の情報が飛び交ったほか、街頭演説でも聴衆同士の小競り合いが続発するなど、異例ずくめの展開となった。

パワハラ疑惑否定 一定浸透か

 県議会の不信任決議を受け失職した9月30日朝。斎藤氏は、神戸市須磨区のJR須磨駅前で単身、街宣活動を開始。都市部から始めた活動を徐々に県内全域に広げていった。

 街頭では、自身のパワーハラスメント疑惑を巡る文書告発問題による県政の混乱を謝罪し、若者に重点を置いた政策や「実績」を強調。その姿をX(ツイッター)などのSNSで毎日発信して共感を巻き起こし、次第に街頭演説に集まる聴衆の数を増やしていった。

 高校時代の同級生らが支援の中心となった。終盤には、兵庫維新の会の県議や市議のほか、自主投票となった自民党の一部地方議員も公然と支援を始めた。

 また、「斎藤氏を支援する」として政治団体「NHKから国民を守る党」党首、立花孝志氏(57)が立候補。動画サイトなどで、斎藤氏を告発した元県職員にまつわる情報などを連日発信した。パワハラ疑惑などを否定する言説が一定程度浸透し、斎藤氏への追い風となったとみられる。

選挙戦最終日 もみ合う聴衆

 選挙戦最終日の16日は神戸市中心部の三宮センター街で「信念を貫き、走り抜けてきた。兵庫の躍動を止めない」と演説。一帯は押し寄せた人であふれかえった。聴衆同士がもみ合う場面もあった。

 県外から訪れた支援者も目立った。大阪市の不動産業の40代男性は「高校時代に苦学し大学進学もあきらめたので、県立大の無償化に取り組む斎藤氏を支持したい」と話した。

 文書告発問題を追及してきた県議は「自分の支持者から『SNSを見ていると斎藤さんは悪くないんじゃないか』と言われ、状況を説明するのに何時間もかかった」と明かす。続けて「不信任決議をしてすぐ知事選に入ればよかったが、(10月の)衆院選で問題への関心が途切れてしまった」と振り返る。

 また、一連の問題を究明する県議会調査特別委員会(百条委)が一定の結論を出す前に、不信任決議になだれを打った経緯についても県議の間には反省の声がある。

稲村氏 首長ら支持も及ばず

 一方、敗れた新人の前同県尼崎市長、稲村和美氏(52)は市長時代と同様、政党の推薦を求めないスタイルを選択した。市民団体を母体に、立候補表明後は県内41市町を回るキャラバンを展開し、首長と面会するなど支持を呼びかけた。

 政党では、独自候補擁立を断念し、自主投票となった自民県議団(37人)の半数以上が稲村氏を支援。立憲民主党と国民民主党の両県連は支援を決めた。公明党県本部は自主投票としたが、水面下で支援した。

 また、尼崎、西宮市など斎藤氏に批判的な阪神間の市長が積極的に支援に動いた。県内29市中、姫路市など22市の市長が14日、連名で「県政は混迷し、知事選で誹謗中傷が行われている。混乱に終止符を打ちたい」と稲村氏支持を表明。選挙期間中としては、極めて異例のアピールだった。

 「分断と対立ではなく、対話と信頼で連携できる兵庫県をつくっていきたい」。16日夜、大票田である神戸市中心部・阪急神戸三宮駅前でこう演説を締めくくったが、及ばなかった。【中尾卓英、山田麻未、大野航太郎、井上元宏】

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