元日の能登半島地震で甚大な打撃を受けた石川県輪島市の伝統工芸・輪島塗。自宅や工房が被災し、全ての道具を失った職人の多くは、地震から3カ月を経ても本格的な活動再開には至っていない。「同じ職人として何かできないか」。こんな思いから全国の漆芸作家らが大量の道具を無償提供するなど、輪島塗の職人支援への輪が広がっている。
地震直後の大火に見舞われた輪島朝市の近くにある重蔵神社。3月30、31の両日、全国の漆芸作家らから職人用の道具約千点を集め、被災した輪島塗職人を対象にした無料譲渡会が開かれた。
企画したのは、福井県鯖江市周辺に伝わる伝統工芸品「越前漆器」の木地師、酒井義夫さん(43)。同じ職人として、活動再開に向け「希望を持ってもらえたら」と、交流サイト(SNS)を通じて全国の漆芸作家らから職人用の道具を募り、へらやはけ、やすりなど約千点が集まった。酒井さんは「へらが一つでも懐にあるだけで気持ちの持ちようが違う」と話す。
譲渡会に訪れた職人らは、大量に並んだへらやはけなどの使い心地を確かめ、選んだ道具を大切そうに持ち帰っていた。工房が全壊し、道具一式が取り出せない状況という輪島市の職人、角谷進さん(58)は「道具がないと何も始まらないので、すごく助かる。本当にありがたい」と笑顔で帰路についた。
2日間で職人ら約50人に計200点ほどの道具が譲渡された。現地で譲渡会の運営を担当した同市の漆芸家、桐本滉平さん(31)も地震で自宅兼工房が全焼し、道具などを全て失ったが、「仕事を再開しようとする職人がこんなにいることに勇気をもらえた」と語った。
今回の譲渡会について、酒井さんは「想像以上に多くの道具が集まった」とし、「多少は(職人たちの)力になれたのではないかと思う。できれば今後も継続的に支援したい」と強調した。(安田麻姫)
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。