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 映画や音楽配信、最近では「おやつ」や香水にまで広がっているサブスクリプション。一定額を支払えば好きなように使える便利さやコスパの良さなどで広がっているが、こうしたサブスクで“被害”に遭った人たちがいる。

 サブスクを使おうとスマホを3回タップしただけで知らぬ間に40万円を引き落とされてしまった女性。何が起きたのか。(サタデーステーション 「サブスク問題取材班」)

「たった数秒で決済されたのは40万円。何が何だかわからずに……」

 都内に住む30代のある女性は昨年、「洋服のサブスク」に申し込んだ。1か月1万円ほどを支払うと、数回、「コーディネーターが選んだ」服が自宅に届く。「自分でいちいち買うより便利だしコストも抑えられる」とまずは1か月の「お試し」を申し込んだ。届いた服に満足したため、「1年契約にかえよう」とスマホを開き、申し込みをしようと画面を押した。

「何にも反応がないので『あれ?押せていないのかな』って思ってしまってもう1回押しちゃって、それでも全く反応がなくてもう1回押しちゃって……」

 通常、私たちがネットショッピングする際には、決済画面で「注文を確定する」「料金を支払う」などのボタンが出てきて、さらに「本当に申し込みますか」などの追加のボタンまで出現することがある。しかし、この女性の場合はこういったことはなく、画面が全く変わらないままだったという。

反応がないため繰り返しタップすると…

 驚いたのは数日後。カード決済に見覚えのない引き落としがあった。約10万円プランが二つ、約20万円プランが一つ。全くおなじ期間で3年分だ。見てみると、あの洋服サブスクのサービス名が書かれていた。

 怖くなった女性が確認しようとしたが、サブスクサービスのページに書かれている電話にいくらかけてもつながらない。仕方がないので、はやる気持ちを押さえながらメールアドレスに「見覚えのない引き落としがある」と送った。

 約1週間後、返事が来た。「お客様は〇〇プランを2年分、○○プランを1年分申し込んでいます」

全く同じ期間で3年分契約されていた

 「すぐに解約したい」。メールしたが、また1週間、音沙汰がない。何とかしなければと思い、ネットでその業者やサービス名を検索した。「画面がフリーズしたと思ったら二重契約になっていた」「決済できませんでしたと表示されたのでもう一度押したところ二重請求されている」

 次々と同じような「被害者」の声が見つかった。困った人たちでつくった「LINEグループ」までも作られていた。

そこでアドバイスを受けながら業者側と何度もやり取りを重ね、数か月後、女性はようやく解約することができた。だが、戻ってきたのは一部だけ。

 「確かにボタンを押してしまったのは自分。でも、あんなやり方、許されるんでしょうか」

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問題の決済画面を入手!そこには……

問題の決済画面を入手!そこには……

 実は、こうしたネット通販でのトラブルは年々増えている。国民生活センターによれば、「サブスク」だけでも相談件数は2023年度だけで1万件を超える。

 そんな中、国は「特定商取引法(特商法)」を改正し、決済などの最終確認画面では、いくら支払うのか、解約するにはどうすればいいのかなどを消費者に分かりやすく表示するよう義務づけた。

トラブル相談件数は年々増加

 女性が使ったサービスの決済画面は、どんなものだったのか。

 私は、ネットなどを使い、関係者にしらみつぶしにきいていった。すると、「この業者の決済画面のスクリーンショットを持っている」という人がいた。

 提供された画像には解約方法は書かれておらず、「登録する」とういうボタンだけがあった。改正された特商法では、決済ボタンも、「お金を支払う」ということがわかるようなものにしなければいけないと決められている。提供者によれば、この画面は2022年12月のもの。法改正はこの年の6月。改正法を破っているのではないか。

 ネットでさがすと、同じ業者から「”被害“を受けた」という人が何人も見つかった。このうち5人から、直接話をきいた。「全く身に覚えのない傷の補償金を請求された」「何度解約を申し込んでも、全然メールが返ってこなかった」

私たちが入手した問題の決済画面

 しかしほぼ全員、「泣き寝入り」していた。1人の女性が言った。「数万円だし、勉強代と思うしかないのかな、と」

 悪質なやり方で儲けるのは、何とも納得できない。業者に取材しようと、メールを送った。なかなか返事が来ない中、「社長が取材に応じると言っている」と返信が来た。候補日を送ると、「検討する」とされたまま、音沙汰がなくなった。

 しびれを切らして、「御社の決済画面には、特商法上問題があるのではないかと思っている。ぜひ、考えを伺いたい」と改めて送ると、「社長が直接説明する」と今度は日を指定してきた。

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いよいよ社長と対峙 「違法では?」に答えは……

いよいよ社長と対峙 「違法では?」に答えは……

 取材当日、都心のビルに入り、記された階に向かうと、会社名のない受付があった。「どちらの会社とお待ち合わせですか」ときかれた。レンタルオフィスだった。

都心のビルに入る会社を直撃

 約束時間から数分後、30代くらいの若い社長が姿を現した。撮影機材を設置して取材を始めようとすると、「撮影はお断りしたい」「音声も放送してほしくない」という。

 せっかく社長にまでたどり着いたのだからとその条件は飲んだ。

 社長から渡されたのは数枚のA4用紙。あらかじめ送っていた質問の回答だ。

 それを読み上げる形で取材が始まった。「現在、弊社のホームページでは改正特商法を守った記載をしている。お客様から苦情があったこともあるが、満足してくださっている方も多い」

 「ファッションレンタルのサブスクは新しいビジネスモデルのため、サービスがわかりにくい、決済がわかりにくいサイトが見にくいなどというご指摘をいただくことがある」

 すぐには突っ込まずに、言いたいことを話してもらった。

 そして……

 「こちらが指摘しているのは、現在の状況ではありません。昨年、一昨年、わかりづらい、悪質な決済画面で被害を受けたという方が何人もいる」と詰め寄った。

 「そんなはずはないです。毎回、弁護士に相談しながらページを作っていますから」

 「それでは、2022年12月、『登録する』のボタンだけで解約方法もきちんとかかれていないようですが、それは特商法上、問題ないですか?」

 社長の顔色が変わった気がした。「そんなはずはないですよ。その証拠でもあるんですか」

 手元にあった決済画面を印刷したものを手渡した。

社長「おかしいなあ、これは本当にうちのページ?これ以外に記載はなかったんですかね」

私「あなたの会社に決済画面のログなどは残っていないのですか」

社長「そういうものは全部保存しているわけではないので、確認は難しいですね。ただ、本当にこんな画面があったか、持ち帰って確認します」

私「この画面だったら特商法違反ではないでしょうか」

社長「この画面が本当にうちのものだとはっきりしないし、言えませんよね」

現在と以前の画面表示の比較

 結局、社長は決済画面の不備は認めず「持ち帰って確認する」とした。もっと詰め寄りたかったが、質問を「確認しないとわからない」とひらり、ひらりとかわされ、問題を認めてくれなかった。

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「法律に抜け穴」 どうすれば“被害”を防げるのか

「法律に抜け穴」 どうすれば“被害”を防げるのか

社長に2週間後を期限に回答を求めると、2週間後、「いまだに事実関係確認中」というメールが返信され、その後、何の連絡もなくなった。

 せっかく法律を作ったのに、それでも困っている人がいる。どうすればいいのか、栃木県弁護士会の島薗佐紀弁護士に話を聴きにいった。

 「確かに特商法はできましたが、まだまだ法律を直す必要があります」

 決済画面に表示を義務付けても、業者側は表示をすぐに変えることができる。今回の業者のように「ちゃんと法律を守っています」と直した後の画面だけ見せられたら、決済した当時、違法だったと立証できない。法律はそこが抜けてしまっている。

島薗佐紀弁護士

 「自分が決裁したときにどんな画面だったか、身を守るためにも、最終確認画面のスクリーンショットを残しておくことをお勧めします」

 日本弁護士会としても、もっと“被害”を減らすためのさらなる法改正を求めているという。

 また、島薗弁護士は「通信販売にはクーリングオフがないんです」と教えてくれた。

 購入しても、一定期間なら無条件で契約を破棄できる権利が保障された「クーリングオフ」だが、ネットを含めた通信販売には適用されない。業者側が「○○日以内なら返品無料」とつけているのは「特約」で、それがなければ一度購入したものを返品するのは難しいという。

 ネット上を見ると、様々な広告がある。「1カ月無料」「初回お試し」……。

 こうした言葉につられてスマホをタップしてしまうと、思わぬ出費を生むことになりかねない。改正特商法で法律は厳しくなったが、法改正後、消費者庁に行政処分された業者は今月までに4業者だけ。全く追いついていないと言える。

 島薗弁護士は「法改正は必要だが、消費者がトラブルにならないように自己防衛することも大事」と話してくれた。

高額の引き落とし被害にあった女性

 サブスクの“被害”を受けた人たちの取材を通して、「何とかしなければ」と思ったが、法律も、直接取材でも思った結果は残せなかった。だが、こうした報道を通して、少しでも悪質な業者に引っかかる人が減ってほしいという思いは強く持っている。

(サタデーステーション ディレクター 染田屋竜太)

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