過酷な戦場の現実や加害行為のため、心的外傷後ストレス障害(PTSD)などに苦しんだ旧日本軍兵士や家族の実態について、厚生労働省は近く、初めての調査を本格化させる。旧陸海軍病院を前身とする国立病院機構などに対し、治療を受けた兵士のカルテなどの資料が残っていないか照会し、協力を求める方針。厚労省は関係資料などを収集・分析した上で、戦後80年を迎える2025年度に公開、展示する。
戦争で心を病む兵士がいることは、第一次世界大戦(1914~18年)の頃から指摘され、日本では戦争神経症と呼ばれた。現在、戦争トラウマと呼ばれる症状に近いと考えられる。だが精神の強さを強調する軍は患者の存在を否定した。戦後も長らく、当事者や家族は「恥」と考える意識が強く多くを語らなかった。
当時の資料として、精神疾患を発症した兵士約1万人が入院していたとされる国府台陸軍病院(現国立国際医療研究センター国府台病院、千葉県)のカルテの一部が同県内に保存されている。こうした資料をもとに近年になって、実態を問い直す研究が出てきた。
また戦争トラウマは、PTSDのほか、アルコール依存や家族への暴力などの形で表れ、復員兵の家族グループが2018年ごろから活動してきた。グループは家庭内暴力を受け、親子関係をうまく築けなかった体験を語り合い、国に対して実態調査を求めてきた。
厚労省は、元兵士や家族の体験、専門家による研究の成果などを調査する方針。国立病院機構などに照会すれば、新たな資料が見つかる可能性もある。調査は有識者を交えて実施し、実態について戦傷病者史料館「しょうけい館」(東京都)で展示する。
ただし、厚労省は調査対象について、戦時中に戦傷病者と認定された人に限るとしている。戦争トラウマを抱えていたのかもしれないと、家族が最近になって気付くケースは調査の対象外となる。【肥沼直寛】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。