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 パリオリンピックで、“性別”をめぐる騒動が起きている。きっかけはボクシング女子66キロ級の2回戦、アルジェリアのハリフ選手とイタリアのカリーニ選手の対戦。カリーニ選手は、ハリフ選手のパンチを顔に受け、試合開始わずか46秒で棄権した。

【映像】ハリフ選手の握手を拒否するカリーニ選手

 この結果に、イタリアのメローニ首相は、Xで「男性の遺伝的特徴を持つアスリートは女性の競技に出るべきではない」と抗議。ハリフ選手が性に関する疾患の一つ“性分化疾患”を持ち、多くの女性が持つ「XX」染色体ではなく、男性特有の「XY」を有すると報じられていることを受けての発言だった。

 SNS上で「元男性」との誤情報も流れる中、IOC(国際オリンピック委員会)は「女子競技に参加してきたし、今もしている」として、トランスジェンダーの問題ではないとの立場を示す。スポーツの「公平性」と「女性の権利」をどう守るべきか、『ABEMA Prime』で考えた。

■性分化疾患(DSD)とは

 話題となっているエイマヌン・ハリフ選手(25)は、IOC報道官によると、「女性として生まれ、女性として登録され、女性として人生を送り、女性としてボクシングをし、女性のパスポートを持っている」。一般的に男性性染色体はXY、女性性染色体はXXだが、ハリフ選手はXY染色体を持つ。昨年の世界選手権は「XY染色体」により出場資格取り消しになったものの、2021年の東京五輪には出場し、準々決勝で敗退していた。

 性分化疾患(DSD)とは、性染色体、性器、子宮・膣の有無、精巣・卵巣など、“身体の性に関わる部分”が多くの人とは違う疾患の総称で、40種類以上あるとも言われる。厚生労働省は、出生4500例に1例の頻度と推定している。例の一部として、出産後に判明したものだと「性器で性別が判断できない」「尿道の位置が違う」、成長過程・不妊治療などで判明したものに「男性で胸が膨らみ始める」「精子が作れない」などが挙げられる。

 性分化疾患に詳しい小児科医で、国立成育医療研究センターの堀川玲子氏は、性が分化する過程について「最初の要素として、染色体がXXかXYかがある。次の段階で、性腺が精巣と卵巣に分化する。精巣は母親の胎内にいる時から活発に働き、男性ホルモンや、女性の内性器である子宮が育たないようにするホルモンを出す」と解説。

「典型的には、XY染色体があれば、精巣ができ、外性器も男性器になる。しかし性分化疾患では、非典型的になる。また、男性ホルモンが分泌されても、外性器などでうまく働かない場合もある。その場合には、男性ホルモンの値が高く、染色体がXYでも、女性に分化する」と付け加えた。

 どのような症状によって、性分化疾患だと診断するのか。堀川氏は「生まれた時の外性器が典型的でない場合や、胎児で判別していた染色体と一致していない外性器の場合には、まず性分化疾患を疑う」と答えた。また、次に疑うタイミングが思春期といい、「女性として育ったが月経が来ない、男女とも二次性徴が来ないなどがある。成人してから、不妊治療のために病院を受診したところ、典型的な染色体ではないとわかる場合もある」と述べた。

■割れる出場可否の判断

 ハリフ選手をめぐっては、大会を管轄する団体によって出場可否の判断が割れてきた。アルジェリア五輪委員会によると、「選手村に到着した時点で、あらゆる検査を受けている。妊娠検査まで受けた」。昨年の世界選手権は出場不可になったが、当時IBA(国際ボクシング協会)はテストステロン濃度が高いことを理由にDSD陽性と判定した。一方でIOCの医療責任者は、ボクシング選手のテストステロン濃度が高いのは、“普通のこと”だと判断しているという。

 染色体によって、身体能力に違いが出てくるのか。堀川氏は「『Y染色体があるから筋肉が多い』といった考えは違う」とした上で、「筋力の付き方や、筋肉の質は、男性ホルモンの分泌量や、その他の男性ホルモンがどれだけ働くかによる」と説明。

 欧米では、性分化疾患を「個体の差」であり、「個性」とする価値観も多いという。堀川氏は「ホルモンの多い、少ないと同じように、『たまたま染色体にYが存在していただけ』と考えた方がいい。もちろんY染色体が影響するものもあるため、そこは医学的に判断すればよい」と続けた。

■「男が女を殴ってるわけでドーピングより重大な違反」間違った認識をしているネットの声

 今回の試合をめぐって、Xでは「トランス男性が女性選手を殴る時代!?」「女子とはいえ、XX染色体の人と同じ大会に出していいのかという問題」「多様性という“偽善”が、女性の権利を奪った」「実質的に男が女を殴ってるわけでドーピングより重大な違反」「男、女、トランス枠にしたらいいじゃん」といった意見が出ている。

 こうした反応に、WBC女子世界フライ級元チャンピオンで、2017年に性別適合手術を受け、現在は男性としてボクシングジム経営などを行っている真道ゴー氏は「トランスジェンダーと性分化疾患は、まったく別の問題だ」と反論し、「染色体がXXではないだけで、一生懸命トレーニングしてきた人が、無知な人たちから『男が女として戦っている』と誹謗中傷を受けるのは本当に悲しい」と話す。

 真道氏は、女性としてボクシングをしていた当時は、男性ホルモン投与を受けておらず、「女性として生まれたまま戦っていた」。そこには葛藤もあったという。「男性として戦いたい気持ちはありながら、不可能だろうなとも感じた。だからといって、男性ホルモンを打ちながらリングに上がるのも違う」。男子・女子で区分けされがちなスポーツ業界で、「トランスジェンダーとしてやってきたが、性分化疾患については別の問題で、一緒に捉えるのは違うのではないか」と訴えた。

 なんもり法律事務所の南和行弁護士は、真道氏の「スポーツを極める信念」について、「男性だと自覚していながら、『ホルモン投与を受ければ、リングに上がれなくなるから』と、生まれた性別を受け入れて、女性としてリングに上がった」と評価する。

 その上で、SNSなどでの反応に対し、「ルールや公平性を議論する体をとって、個人攻撃が行われている。性分化疾患の実態を自分がわからないから、安全性を考える体で、自分と違う人を排除するのは、腹立たしく情けない。イタリアのメローニ首相にも言えるが、『ハリフ選手を皆の前に引きずり出して、判定してやろう』といった構図で、この問題を捉えるのは間違いだ」と苦言を呈した。

(『ABEMA Prime』より)

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