障害を持った人がつづった詩に曲を付け、ステージで歌う第49回わたぼうし音楽祭(奈良たんぽぽの会主催、毎日新聞社、毎日新聞社会事業団など後援)が8月4日、奈良県大和郡山市の「DMG MORI やまと郡山城ホール」で開かれる。今年は315編の詩が寄せられ、選ばれた8編の詩から303曲もの歌が生まれた。当日に演奏される入選作の作詩者に思いを聞いた。
周囲が自分を見て笑っているような気がする。黙り込むと、過去に失敗した経験やその時の恥ずかしさと後悔で頭の中が塗りつぶされていく――。
約25年前から統合失調症に苦しむ橡川(とちかわ)慈彰(よしあき)さん(49)=岐阜県本巣市=は、周囲の支えで障害を克服して働いている現状を詩で表現した。タイトルの「白いガーゼ」は、支えてくれる大事な友人のことだ。「周囲の目が気になり、そのたびに心の傷口が開く。でもガーゼを当ててもらえれば、また頑張れるような気になるんです」と話す。
橡川さんは専門学校を卒業後、自宅で少しずつプログラミングなどの仕事をするようになって数年後に病気を発症した。突然、家の外から人の声が聞こえるようになり、そこから一気に症状が進んだという。3カ月の入院後、木工場などでのアルバイトを経て、2013年4月から現在の職場の本巣市役所で働き始めた。
しかし、病気の影響で常に人の視線や言葉が気になり、自分が考えていることが周囲に知られているような感覚になる。「心の傷口」が開くと、過去にうそをついたことや人を傷つけてしまったことへの後悔が次々とあふれ出し、痛みで動けなくなる。それでも、どんな場面でも、いろんな形で「白いガーゼ」が支えてくれたという。
職場で支える友人の林玲一さん(57)は同市の企画部長。財政課の非正規職員である橡川さんとは部署も立場も違うが、22年のわたぼうし音楽祭で入選した橡川さんの詩「障害のある僕と高齢のお母さん」を見て、心が揺さぶられたという。
お母さんには僕がついているからね/僕はお母さんが大好きだからね/僕はこれからもお母さんについているからね
橡川さんの詩は、認知症状が進み、足腰も弱っていく母(82)への変わらない愛情をまっすぐに歌った。
「自分も同居する母のために家を構えたが、気持ちを伝えることはなかなかできなかった。橡川さんのまっすぐな詩に素直になる勇気をもらった」と林さん。「『ガーゼ』という支えがあれば頑張れるという気持ちはすごく分かる」という。
今回の詩では「ぼくでも 夢みれる」という表現が繰り返される。「恋愛とか結婚とか、お母さんの病気の回復とか、いろんな夢を見ていたい。たとえ、かなわなくても」。そう話す橡川さんは少し寂しげに見えた。【稲生陽】
「白いガーゼ」
ぼく 働くのを していて
ぼく 職場が つらくないけど
まわりの人は ぼくとちがって できがいい
みんなはたぶん 大学をでてるけど
ぼくは ちがう
ぼくは 大学を でてない
ぼくは 正職員では ありません
ぼくは かしこく ないけど
今はもう 勉強をするときじゃないと思って 働く
朝起きて 職場へ行って
はじまったら 眠くても 起きてる
ぼく 働く
ぼく 職場が つらくないけど
まわりの人は ぼくとちがうけど
ぼくは 勉強が
できないだけじゃ ないんだけど
みんなは いいけど
ぼくは ダメ
ぼくには キズがある
どうなってるか ぼく わからないけど
キズ口が ひらくとき あって
それが イタイ
ぼく じっとして がまんする たえる
でも ぼく そこからでも 治る
ぼくでも 楽しい夢 みれる
長い夢 みれる
ぼく キズ口に
ガーゼをあててもらったこと あって
白いガーゼ
命に 白きガーゼ
おかげで ぼくでも 夢みれる
ありがとう ぼく 仕事 つづけてます
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