音楽に合わせ、お台場の夜空を彩った「東京ミュージック花火」=東京都港区で2012年10月7日午後6時42分、竹内幹撮影
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 音楽に合わせて次々と花火を打ち上げる新たなエンターテイメント「ミュージック花火」。夜空を見上げながら花火会場の大型スピーカーで音楽を楽しむスタイルが一般的だが、阿南高専(徳島県阿南市)の学生がスマートフォンをミュージック花火のスピーカーにするアプリ開発に取り組んでいる。実用化できれば、混雑した会場に足を運ばなくても思い思いの場所でミュージック花火を楽しめる。開発のハードルは高いが、成功の鍵を握るのは「GPS(全地球測位システム)」だという。【山本芳博】

 従来、人間の手作業で点火されてきた打ち上げ花火。今は技術の進展により、コンピューターが組み込まれた電気導火線付きの点火器で打ち上げの時刻を100分の1秒まで制御できるようになり、花火と音楽をシンクロさせた空間演出が可能となった。打ち上げの時刻に合わせて事前に音楽が流れ出す時刻を設定し、観客にライブ感覚で花火と音楽を同時に楽しんでもらうのがミュージック花火だ。エンターテイメント性が高く人気が広がり、近年では全国の多くの花火大会で取り入れられている。

 数百人規模の人々が一度に来場するミュージック花火では、会場に大型の音響設備を複数設置する必要がある。スピーカーから遠く離れた場所に陣取ると音楽が聞こえにくくなるため、エンターテイメント性が低下する。そこで、阿南高専と阿南市の花火製造会社「岸火工品製造所」が共同で、ミュージック花火をスマホで楽しむアプリ開発に着手した。

 開発は2020年から始まり、高専内で学生に引き継がれてきた。創造技術工学科5年の藤見剛広(よしひろ)さん(19)は23年7月から取り組む。アプリ開発のためのプログラミング環境「Androido Studio(アンドロイド・スタジオ)」や、花火や音源の情報を読み込ませたアプリ開発用のプラットフォームなどを活用しながら試行錯誤を続けている。

 藤見さんは「C言語」「JAVA」「Python(パイソン)」などのプログラミング言語の知識を持ち、卒業後はIT関連企業に就職する予定だ。「これまで開発の経験があまりなく、在学中にエンジニアとしての技量を高めたかった」と語る。ただ、前任者の学生から引き継いだプログラムは、バージョンアップすると関数などの互換性がなくなり、自ら一からプログラミングし直さなければいけないなどの苦労もあった。

不特定多数の人が同時刻に再生するには

 最大の難関は、アプリを通じて不特定多数の人々のスマホで音楽を同時再生させる技術の確立だ。ミュージック花火では、コンピューターが組み込まれた点火器で、ある時刻に合わせて花火を打ち上げる。不特定多数の人が各自のスマホにダウンロードした専用アプリで、その時刻に合わせて音楽を再生して聴こうとし、電話回線のネットワークで時刻情報を配信するサーバーを利用して音楽を同時刻に再生させようとしても、ネットワークの混雑次第で、認識するタイミングにずれが生じる。その結果、不特定多数の人が近くで同じ花火を見上げていても、各自のスマホから音楽が鳴り始める時刻がずれて重なってしまい、聴きづらくなる。

 藤見さんは、指導を受けている光デバイスや情報処理が専門の岡本浩行教授に相談すると、GPSにある時刻情報の活用を提案された。GPSは人工衛星の電波をスマホに内蔵された受信機が受信して現在の位置情報を表示するシステムで、ネットワークのように大勢の人が同じ場所に集まっても通信の混雑がない。実験でGPSを使って時刻の情報を受信した結果、全てのアプリでずれなく同時に音楽を再生できた。

 開発は大詰め段階を迎えている。実際にスマホを使い、学校がある阿南市を一望できる津峰山(つのみねさん)(標高284メートル)などでミュージック花火の実証実験を行うのが当面の目標だ。藤見さんは「300人ほどの来場者に開発中のアプリをスマホにダウンロードしてもらい、スピーカー端末として使えるか試してみたい」と意気込んでいる。

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