海底清掃で漁の網やプラスチック製品などのゴミを引き上げ、石崎漁港に降ろす漁業者たち=石川県七尾市で2024年4月23日午前9時24分、萱原健一撮影
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 ナマコ漁で有名な石川県七尾市の石崎漁港。県漁業協同組合七尾支所の運営委員長、竹内大生さん(38)は、元日の能登半島地震で船が流され、漁師を辞めることも覚悟した。船は港に戻ってきたが、同支所の収入の7割以上を占めるナマコは捕れなくなった。今後どうするのか。そう尋ねる記者を船に乗せ、竹内さんは「これが今の唯一の希望です」と海に浮かぶプラスチックの黒いかごを指さした。【萱原健一】

 竹内さんに初めて会ったのは4月23日。漁港の岸壁には、七尾湾の海底から引き上げられた大量のゴミが積み上げられていた。地震で七尾湾は約1メートルの津波に襲われ、底引き網や定置網が流され湾内に沈んだ。大量のゴミを前に記者が途方に暮れていると、新たなゴミを積んだ竹内さんの船が港に戻ってきた。

七尾湾の海底から引き上げられ、石崎漁港に置かれていた大量のゴミ=石川県七尾市で2024年4月23日午前11時52分、萱原健一撮影
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 海の清掃は、従事者の人件費などを公費で賄う国の支援事業。1日作業すれば1万7300円の日当が支給される。竹内さんは1月20日、全国漁青連副会長として上京し漁師の窮状を国に訴えた際、東日本大震災を経験した宮城県の漁師から国の支援事業を教えられた。2月5日に七尾支所で海の清掃を開始。今は、地震で漁に出られない漁師たちの貴重な収入源だ。

 「網に入るのはゴミばかりで、ナマコは全くです」。竹内さんによると、湾内の海底は岩の形が変わってしまった箇所もある。海底をはうナマコは津波で沖に流されたのか、網にもかからない。通常漁期は11月から4月で、水揚げは例年50~70トン。だが、近年は海水温上昇の影響で漁獲量は減り、今年も11、12月で合計で460キロのみだった。水温が下がる1月の水揚げに期待していたさなかに地震が起き、1月以降は4月15日の今季終了まで1匹も捕れなかった。

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 記者が船に同乗したのは、波の穏やかだった7月2日。「唯一の希望」と竹内さんが指さしたのは、養殖中のマガキだった。稚貝を入れた75個のかごが湾内の海面に揺れる。元々約5ミリだった稚貝は順調に育ち、ふっくらと身を太らせてきた。

七尾湾で挑戦している養殖カキ。「これが今唯一の希望です」と話す竹内大生さん=石川県七尾市で2024年7月2日午前11時12分、萱原健一撮影
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 カキといえば、夏の産卵を終えると身が痩せて食用に適さなくなる「二倍体」が主流だ。だが、竹内さんが選んだのは、人工的に処理をした、産卵しない「三倍体」と呼ばれる品種。夏場も含め季節を問わず出荷できるのが強みで、差別化を図るのが狙いだ。

 養殖を始めたのは地震前の23年12月8日。「ナマコに代わる新たな石崎漁港の特産にしたい」と、稚貝5万個を購入し、目の小さなネットに入れて港近くの海に浮かべた。地震による津波で稚貝はネットごと流されたが、幸い沖合に流された仲間の船にネットは引っかかり、回収できた稚貝をかごに移した。

七尾湾の石崎漁港で竹内大生さんが取り組んでいる養殖カキ。順調に育っている=石川県七尾市で2024年7月2日午前11時12分、萱原健一撮影
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 竹内さんは現在、1週間に1度、かごからカキを取り出して大きさを確認しデータを取る。「成長具合を確認するのが楽しみ」。8月上旬の出荷が目標で、直売か金沢の総合市場で販売し、収入は成長前のナマコの購入費などに充てる考えだ。

 七尾支所の正組合員は現在25人。70代が10人と最も多く、20~40代はわずか4人。高齢化が進み、後継者問題は深刻だ。そんな中、竹内さんの長男慧翔(けいと)さん(15)が今春、県立能登高校に進学し、漁師を目指して水産を学び始めた。「長男が高校を卒業し、一度外で修業した後、七尾に帰って来るまでにこの海を復活させたい」と竹内さん。息子に継ぐ石崎漁港の未来を、津波でも生き残った「希望のカキ」に懸けるつもりだ。

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