右肩上がりの投資市場。投資ブームが広がるなかで、若者をターゲットにした悪質なマルチ商法が摘発され、社長ら4人が逮捕されました。
その手口は、マッチングアプリを利用して学生などを誘い出し、投資話で言いくるめて入会費を巻き上げる。そして、友人を勧誘させるというものでした。約2000人から8億円以上を集めていたということです。
■人気のマッチングアプリで勧誘
被害に遭った大学生(20代)
「家庭の状況が厳しいのと、勉強がつらいこともあったし、居場所が欲しいというか。異性の友達が欲しいので。異性の人と出かけたことないから…自分の心も戻るんじゃないかと」
ただ出会いを求めていただけなのに、いつのまにかセミナーに参加させられていました。そこにいたのは、カリスマと呼ばれる男。新城誠こと、坂本新容疑者(30)です。
坂本新容疑者
「みんなバカになって俺を信じたまえ。俺は天才だから。もしかしたらバカかもしれないけどね。だったらごめん。多分大丈夫だ。IQテスト的にも確かに俺は天才的な部類だ。バカは俺についてこい」
そして、齋藤一幟こと大森航斗容疑者(26)。
大森航斗容疑者
「なぜ貧しい人を見ると嫌悪感を抱いてしまうのか。『貧乏なのは本人のせい』との認識がある。『貧乏=努力のできない怠け者』との認識になっている」
さらに、森田帆南容疑者(28)と奥寺大容疑者容疑者(28)を加えた4人は、マッチングアプリを入口にビジネススクールに勧誘して、約2000人から8億5000万円ほどを集めていたということです。
2000人の会員は男性の方が多めでした。平均年齢は21.7歳。未成年は対象外だったようです。首都圏に住んでいる若者がほとんどでした。
大金を持たない大学生たちから、どうやって金を集めたのか。取材に応じた男性がマッチングアプリを始めたのは大学3年生のころ。初めて会えることになった女性が、よりによって勧誘員でした。
被害に遭った大学生(20代)
「写真と同じ感じの人で、嘘をついていないアパレルの普通の人。(Q.あれ?ってなったのはいつ)急に話が変わったんですよ。『いい人紹介してあげるよ』みたいなことを言われたので」
これが常套手段だったようです。
勧誘員の女性
「うちのビジネススクールに入れば人脈が広がる」
「若くしてタワマンに住むすごい人がいる。会ってみない?」
その“すごい人”が登場すると、勧誘が加速します。そして…。
被害に遭った大学生(20代)
「僕がお金がない学生で、なかなかバイトにいけないので、42万9000円の入会料が払えない。『消費者金融に借りた方が良い』と」
次のページは
■容疑者らは業務停止命令中■容疑者らは業務停止命令中
押収品のなかに契約書がありました。金額は42万9000円。「私は社会的マナーを守り、健全な販売活動をします」と誓わせていました。概要書面には「あなたの紹介した人が登録した場合、10万円のリクルートボーナス獲得」などとあります。
東京都のホームページには、去年3月の日付で、それぞれ別の会社の代表として容疑者3人の名前が並んでいました。いわゆるマルチ商法を違法に行っていたとして、都から業務停止命令が出されていたのです。3つの会社は、プレジデントが大元で、モノリスやパイオニアとフランチャイズ契約などを結んでいました。森田容疑者は坂本容疑者の側近とみられます。
今回の逮捕容疑は、都の業務停止命令を受けていたにもかかわらず勧誘を続けていたなどの特定商取引法違反でした。
次のページは
■“若者の焦り”につけ込む手口■“若者の焦り”につけ込む手口
なぜ若者たちは彼らの話に魅了されてしまったのでしょうか。
被害に遭った大学生(20代)
「最初は社会人の月収の話をして、月収が下がっているからどうすればいいか『副業でカバーするしかないよね』と。モチベーションを高めさせて、ポジティブになるように洗脳していく。夢リスト100個書いたりとか。(Q.怪しいとか危ないとかは)どっかに飛んでいきました。夢リストの影響かもしれない」
坂本新容疑者
「副業というのは間違いなくビッグな市場になっていく。まず国も推進しているし、1個の仕事だけで死ぬまで豊かに、老後も年金だけで豊かに生きるのももう不可能」
奥寺大容疑者
「ダブル納車っていうのを初めてした。(Q.それぞれいくら)こっちが2000万円ぐらい。こっちが750万円ぐらい」
容疑者らは集めた金を、高級マンションの家賃や高級外車の購入費用などに充てていたとみられます。学生たちには借金だけが残りました。
被害に遭った大学生(20代)
「利息が付いていて、全然借金が減らないので。それが一番、僕の心に刺さって。『お金がなくてやばいよ』みたいな。人がいっぱいいる場所で大声出したりとか。めちゃめちゃ涙流したりとか。地獄に落ちてほしい」
次のページは
■若者狙う 悪質な『マルチ商法』■若者狙う 悪質な『マルチ商法』
改めて『マルチ商法』とは、どのようなものなのでしょうか。国民生活センターによると、商品・サービスを契約して、次は自分がその組織の勧誘者となって、報酬(紹介料)等を得る商法です。これ自体は違法ではありませんが、トラブルが生じやすいことから法律で規制されています。
例えば、勧誘目的などを明示する必要がありますが、今回は勧誘目的を明らかにしていないなど、違法なマルチ商法をしていたとして、東京都から業務停止命令を受けていたにもかかわらず勧誘を続けたとして逮捕されました。
今、大学生や若者の間で被害が増えているのが、今回のような、いわゆる“モノなしマルチ”と呼ばれる事例です。
“モノあり”では健康食品や化粧品など『商品』を伴いますが、“モノなし”の場合、海外への投資やビジネス教室など、情報やサービスなどを使って勧誘します。国民生活センターや各自治体が注意を呼び掛けています。
2023年度の国民生活センターへの相談件数(6月末時点)は、全体の約48%を“モノなし”が占めています。年齢別の内訳を見ると、20代が約32%と若者に集中しています。
次のページは
■若者狙う“モノなしマルチ”■若者狙う“モノなしマルチ”
マルチ商法被害に詳しい、上原伸幸弁護士は、大学生や若者の被害の特徴についてこう話します。
上原伸幸弁護士
「多くのマルチ商法は友人関係を利用する。信頼関係につけこむことで、断りにくい状況にする。友人が儲かる姿を見せ、うらやましい気持ちにさせる」
もう一つの特徴が約50万円という被害額です。大学生など、収入のない人が消費者金融で借りられる限度額の上限が50万円だということです。
上原伸幸弁護士
「株高のニュースや新NISAなど、投資への抵抗感が薄れる一方、漠然とした経済的不安をあおり借金をさせる」
上原弁護士によると、こうした例は要注意だということです。
上原伸幸弁護士
「学生に投資を勧めるものは注意が必要。投資経験がなく、収入・預貯金がないことが分かっていながら投資を勧め、さらに借金までして購入させるのは違法。クーリングオフで契約を取り消しもできるが、契約した後すぐセミナーに参加させて、クーリングオフ期間を消化させる手口もある」
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。