聴覚に障がいがある俳優の大城桜子(ようこ、本名・大城早貴)さん(36)=豊見城市出身=が20、21の両日開催される沖縄国際映画祭の上映作品「不死鳥の翼」(岸本司監督)に準主役で出演している。聴覚障がい者の役柄を通して「障がい者の存在や関わり方を知ってもらえたら。耳が聞こえる人が聞こえない人と一緒に活動したいと思ってくれたらうれしい」と意気込む。(社会部・當銘悠)
映画「不死鳥の翼」の一場面。主人公の幼なじみの聴覚障がい者役を演じる大城桜子さん(右、岸本司監督提供)「不死鳥の翼」は、首里城の焼失を機会に首里の人々が希望を取り戻していく、二つの物語からなるオムニバス映画。大城さんは主人公の幼なじみ役で、作品内では手話を使っている。
■1歳半で両耳の聴覚失う
一般的に補聴器を使用しても音を判別できない人や重度難聴者を「ろう者」、聴力がある程度残っていて音を判別できる人を「難聴者」と呼ぶ。大城さんは1歳半で耳の病気を患い、両耳の聴覚を失った。音が判別できず、ろう者として生きることになった。
3歳半から沖縄ろう学校の幼稚部に通い、相手の唇の動きで言葉を理解し、自ら発声する方法(口話法)を習得した。手話通訳がなくても健聴者と会話ができる。当時は手話が禁止されており、習わなかったという。小学校は地元の豊見城市立伊良波小、伊良波中学校に通い、ろう学校高等部在籍中に手話を覚えた。
卒業後は東京で、美容師として働いた。それまで手話通訳なしでコミュニケーションを取っていたが、仕事の状況によっては通訳者の必要性も感じた。また、地域で手話が異なることや、ろう者同士のコミュニケーションの違いに戸惑った。
■「壁と思っていたものは壁じゃなかった」
アイデンティティーに悩んだ時期を経て2009年、「聴覚障がい者の後押しをしたい」との思いから、ミスユニバース日本大会の選考に進んだ。事情があり途中で棄権したものの、再挑戦した2012年は沖縄大会のファイナリストに。2013年には、ろう者のミスの国際大会に日本代表として参加。外国の参加者はろう者として誇りを持っている人が多く、パワフルで、勇気をもらったという。
イベント司会やバラエティーやラジオ番組に出演する機会にも恵まれた。さまざまな経験を通して、できることが増え「今まで壁と思っていたものは壁じゃなかったんだ」と気づかされた。
ミス&ミスター・デフ・インターナショナル(国際大会)に日本代表として出場する大城桜子さん=2013年7月、那覇空港■落ちてばっかりのオーディション
俳優になることを決意したのは2014年、27歳だった。ミスユニバースに参加した時、たくさんの応援をもらった。一方で、「有名になりたいだけじゃん」「調子に乗っている」と批判的なコメントもあり、芸能活動をすることに迷いもあった。それでも決心したのは、純粋に「ろう者のことを知ってほしい」との思いからだ。
米国でのオーディションを経験後、帰国して東京の俳優養成所の門をたたいた。
稽古は苦難の連続だった。動き回りながら指導する先生の口元を必死に見て、何を言っているのか理解しないといけない。手話通訳をしてくれる人はいない。正解がない演技の世界。相手は自分のことを理解してくれるだろうか。全てが手探りで俳優としてやっていけるのかどうか不安が募る中、仲間の「あなたの演技に感動した」との声に励まされた。
「障がい者はビジネスとしては難しい」「応援したいけど、障がいのある人とどう関わればいいか分からない。ごめんなさい」。300以上受けたオーディションは断られてばかり。年齢は30歳を過ぎていた。
バイトを二つ掛け持ちして、自分を追い込むうちに体調を崩した。コロナ禍で孤立感も強まっていった。
■東京パラリンピック開会式に出演
「頑張れるだけ頑張ったから、応援してくれた人も許してくれるかな」。これで最後と決めて応募したのが、「2020東京パラリンピック」開会式のメインパフォーマーだった。
出演が実現し、さまざまな障がいがある人が明るく楽しんでいる姿に励まされ、もう一度頑張ろうと思えた。その後、NHK番組「バリバラ」に出演。ドラマ「あなたのブツが、ここに」で俳優デビューを果たすなど、少しずつ活動の幅を広げてきた。
■社会の橋渡し役に
今後は、沖縄で一緒に映画を作り、世界に発信する仲間を探したいと考えている。手話を使ったドラマを通して俳優を目指すろう者が増えたが、沖縄出身の俳優は大城さんだけとみられる。「沖縄の子どもたちに勇気を与えられるように、ロールモデルとして頑張りたい。人の心を動かせるような俳優になりたい」と夢を描く。
沖縄では健聴者とろう者が接する機会が少ないと感じている。大城さんの活動を通して、ろう者のコミュニケーション方法や手話について関心が高まってほしいと願う。「障がいの有無に関係なく、みんなが支え合う社会をつくるため、橋渡し役になりたい。福祉や社会がアップデートするきっかけになれたらうれしい」と語った。
手話を使う大城桜子さん=2024年4月16日、那覇市内■なはーとで20日上映
「不死鳥の翼」は20日午前11時40分から、那覇文化芸術劇場なはーとで上映される。沖縄国際映画祭の映画に、沖縄ろう学校出身の俳優が出演するのは初めてとみられる。映画制作スタッフが手話を覚えるなど、手探りの中で工夫をしてくれたという。大城さんは「アットホームな現場で、とても安心感があった。声をかけてくれた監督には本当に感謝したい」と話した。
岸本監督は、マイノリティーの映画を沖縄で撮りたいとの思いがあったという。「大城さんが発信を続けることで、ろう者が当たり前のように存在する社会に変わっていくのではないか」と期待した。
おおしろ・ようこ 1987年8月生まれ、豊見城市出身。1歳半で両耳の聴力を失う。沖縄ろう学校幼稚部、豊見城市立伊良波小、伊良波中、沖縄ろう学校高等部を経て卒業後は東京へ。35歳の時、NHK夜ドラマ「あなたのブツが、ここに」で俳優デビュー。主な出演はNHKスペシャル「南海トラフ巨大地震」、映画「ぬくもりの内側」「風が通り抜ける道」「不死鳥の翼」など。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。