佐藤翔一被告に求刑通り死刑判決を言い渡した大分地裁の法廷=大分市荷揚町で2024年7月2日午後2時50分(代表撮影)

 事件発生当時、殺害現場付近で一緒に行動した覆面姿の男3人が真犯人だ、とする被告の主張は認められず――。大分県宇佐市の住宅で2020年2月、親子2人が殺害され、現金が奪われた事件で、強盗殺人などの罪に問われた佐藤翔一被告(39)=大分市=に死刑を言い渡した大分地裁(辛島靖崇裁判長)の判決。被害者遺族が「当然の判決」と受け止める一方、佐藤被告の代理人弁護士は「想定していた中で最悪の判決」と批判し、控訴して争う姿勢を強調した。

 判決によると、佐藤被告は20年2月2日夜、宇佐市安心院町荘(あじむまちしょう)の農業、山名高子さん(当時79歳)方に押し入り、山名さんと長男で郵便配達員の博之さん(同51歳)を包丁やはさみなどで複数回刺して殺害し、現金約5万4000円を奪った。

 検察側はこれまでの公判で、遺体の詳しい状況などを説明し、犯行の残虐性を訴えた。凶器として、菜切り包丁や千枚通し、はさみなどが使われ、2人にはそれぞれ50カ所以上の傷が残されていた。死因は、山名さんが首、博之さんが肩を刺されたことによる失血死で、博之さんは発見された際、後頭部に木製のはしが刺さったままだったという。

 辛島裁判長は量刑の理由説明の中で、こうした犯行形態について「瀕死(ひんし)の状態となった後も攻撃を加え続けてとどめを刺すという、いずれも極めて強固な殺意に基づく執拗(しつよう)かつ残酷なもの」と非難した。

 殺害された博之さんの妻は、これまでの公判の中で葬儀で見た博之さんの顔を「眉間(みけん)にしわが寄り、口はへの字。この世に未練があるようだった」と表現。山名さんの次男は、遺体となった山名さんの表情を「苦痛にゆがんでいた」と例え、「思い出すと今でも感情が壊れそうになる」と吐露した。

 遺族が率直な思いを明らかにしても、佐藤被告はまるで人ごとかのように表情を変えず、「白いプロレスマスクをかぶった男の案内で(現場近くまで)車で行った」など荒唐無稽(むけい)ともとれる証言を繰り返し、無罪を主張してきた。

 佐藤被告によると、ユーチューバーを名乗る覆面姿の男3人組と事前に約束し、事件当日の夜に動画撮影のため、合流。うち1人を自分の車に乗せて現場近くまで運転し、男が車を離れている間、後部座席で横になって休んでいたという。

 男は戻ってくると、車のトランクに血の付いた服や靴など複数の荷物を積み込み、佐藤被告に処分を依頼。「(撮影現場の)サーキットで交通事故があり、人の血を拭いた」と説明したという。謝礼として10万数千円を受け取ったため、由布市内のコインランドリーまで移動して洗濯し、その後捨てた――などと述べ、犯人はこの3人だと訴えた。

 いずれの証言も、佐藤被告を犯人だとする検察側の証拠を覆す意図があったとみられる。検察側は、車の位置情報や目撃情報などから、事件発生時に佐藤被告の車が現場周辺にいた▽佐藤被告の車のトランクなどに付いた血液のDNA型が被害者のものと一致▽佐藤被告は、血の付いた衣服をコインランドリーで洗濯して捨てた――などの証拠を示してきたからだ。

 判決では、こうした被告の主張について「プロレスマスクをかぶった見ず知らずの男からいきなり声を掛けられるという不審を抱き得る状況でありながら(中略)未知の場所へ送迎することや(中略)血液が付着している衣類等が入った複数個のビニール袋の処分を承諾したりしたという内容自体、あまりに不自然、不合理であって、およそ了解し難い」と指摘した。

 こうした「通常ないこと」(辛島裁判長)を考慮したうえで、事件発生時に佐藤被告の車が現場の北約550メートルにあったことや、佐藤被告と面識のない山名さんの血液やDNA型が採取されたことなどの事実関係を照らすと、事件当時車を使っていた佐藤被告が犯人であることを強く推認させるとし、「被告が犯人でないとしたならば合理的な説明が極めて困難である事実といえる」と結論づけた。【神山恵、山口泰輝】

裁判員、量刑判断「間違っていない」

 強盗殺人などの罪に問われた佐藤翔一被告(39)=大分市=に死刑判決を言い渡した大分地裁での裁判員裁判に参加した裁判員3人が判決後、同地裁で記者会見した。3人とも量刑の判断について「納得している」や「間違っていない」などと口をそろえた。

判決言い渡し後、記者会見に臨む大分市の小手川大也さん(左)と佐伯市の佐藤春好さん=大分市荷揚町で2024年7月2日代表撮影

 判決に至るまでの感情について、大分市の会社員、小手川大也さん(39)は「いろいろ悩んだ判決だった」と説明。佐伯市の無職、60代の佐藤春好さんは「重い判決だった。ずっと話し合ってきて、チームとして結論を出した」と語った。また、「決断するときは相当心に負担がかかったと思う」と振り返った。

 殺害現場の目撃証言など直接証拠が乏しい中での裁判について、県内在住の裁判員は「車の中から被害者のDNAが出たのが、直接の証拠にならないにしても、強い要素だった。その反論でプロレスマスクの話が出て、どういう形であれ、信用できないと思った」と説明した。【石井尚】

県警「ご冥福をお祈りする」

 事件発生から約1年8カ月後に佐藤翔一被告を強盗殺人容疑で逮捕した県警捜査1課は、2日の死刑判決を受け、「司法が下した判断に警察がコメントするのは適当ではないのでコメントは差し控えるが、亡くなった被害者のご冥福をお祈りする」とのコメントを丸岡義明次席名で発表した。【山口泰輝】

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