亡くなった人の遺族が役所で関係手続きをまとめて行える「おくやみ窓口」。東海地方では三重県松阪市を皮切りに、各地の市町村で少しずつ設置の動きが広がってきた。身近な人を失った悲しみが癒えないうちに求められる、たくさんの手続き。窓口を1カ所に集約して簡素化し、ワンストップで終わらせることで、市民の負担を軽減する狙いだ。【稲垣洋介】
「お手続きはこれだけあります」。岐阜市役所1階市民課の「おくやみコーナー」を訪れた市民に、担当職員の大野朋子さんが書類を見せながら説明する。
親族が亡くなると、健康保険証や介護保険証の返却、固定資産の名義変更、葬祭費の助成申請などの手続きが必要となる。多いと20種類以上に上り、役所の各課を10カ所以上訪れることになる。母親を亡くした自営業の男性(50)は「父親の時は役所の中をあちこち回り、何度も同じことを書かされて半日がかりだった。今回は1時間かからず、スムーズだ」と話す。
岐阜市は2021年5月に窓口を開設した。ウェブと電話で予約を受け付け、23年度の利用は2157件。役所に死亡届を提出した遺族に、「ハンドブック」を配って窓口を案内している。利用率は年々上昇し、最近は一日10件前後の予約が埋まる。大野さんら職員は手続き対応だけでなく、悲しみに沈む遺族に寄り添い、思い出話などに耳を傾ける場面も多い。
おくやみ窓口は16年に大分県別府市で初めて設置されたとされ、翌17年に三重県松阪市が続いた。同市戸籍住民課によると、23年度に市内で亡くなった人の69%が利用し、利用者の95%が利用して満足だったと答えたという。こうした先駆的な取り組みを受け、全国の自治体に設置の動きが広がった。20年度時点で全国の市町村の約1割に当たる169自治体が開設済みとの調査もあり、その後も設置が相次いでいる。
このうち岐阜県内では岐阜市のほか羽島市や関市、各務原市などで設置されている。全国の市町村で最も面積が広い高山市では6月3日から、従来の本庁舎に加え、新たに九つの支所にも窓口を設けた。行政経営課の中村正樹係長は「わざわざ本庁舎に出向かなくても、近くの庁舎でのワンストップ化が可能になり、市民の負担軽減と手続き時間の短縮がさらに進む」とメリットを挙げる。
導入自治体の担当者からは、ワンストップ化は各地でさらに広がると予想する声がある。一方で職員の人手不足、縦割りで課をまたいだ調整が難しい、などの理由で導入に踏み切れない自治体もあるという。おくやみ窓口は戸籍を扱う部署に設置されることが多く、未導入の自治体の関係者からは「マイナンバーや転入転出の手続きなどで手いっぱい」「他部署の手続きに精通しない職員が間違った対応をしてしまう心配がある」といった声も聞かれた。
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