募集開始当初、豊後大野市のホームページに掲載されていた告知文とイベントロゴ=スクリーンショットより
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 人気ゲーム「ファイナルファンタジー(FF)」そっくりのロゴは、やっぱり使えませんでした――。

 「サウナのまち」として町おこしをする大分県豊後大野市が、イベントの事前告知で使ったロゴなどが、スクウェア・エニックス(東京都新宿区)の「FF」のものに酷似していたため、毎日新聞がスクエニ社側の許諾を得たか確認したところ、同市は「あくまでパロディー」と話し、問題がないとの認識を示したにもかかわらず、開催直前で差し替えていたことが分かった。

 毎日新聞の取材後、役所内からも同様の指摘があり、担当課が顧問弁護士に確認したところ、「法令違反を指摘される恐れがある」との見解を示したためだという。担当者は「もう少しよく検討すべきだった。今後類似事業をする場合は、公の場に出す前によく精査したい」と話し、認識不足だったことを認めた。

 イベントは、ヘッドスパなどサウナにまつわる体験を楽しめるワークショップで、1日に開催。参加者は「戦士」や「魔法使い」などロールプレーイングゲームに登場する役職になりきり、遊ぶような感覚で参加できることを売りにしていた。このためか、当初「サウナルファンタジー」と「FF」を意識した名前になっていた。

 一連のアイデアは、地元のサウナ関係者らでつくる「おんせん県いいサウナ研究所」が市の委託を受け、考案。イベントロゴもゲームタイトルと似たフォントや文字の配置とし、5月に市のホームページなどで告知を始めた。

 これらを確認した毎日新聞は同月上旬、市にスクエニ社側の許諾を得たかを尋ねると、担当者は「オマージュ、パロディーであり、(権利者に)連絡はしていない」と回答。だが、開催数日前になって、顧問弁護士の指摘を受け、イベント名を「サウナーズファンタジー」に変更。ロゴも別のデザインに差し替えた。イベントには約100人が参加したが、変更への苦情などはなかったという。

 毎日新聞は、ロゴの酷似などを見つけた時点でスクエニ社にも見解を求めたが、同社広報室は、個別案件については開示していないとした上で「原則として弊社の事業活動、あるいは弊社の直接のお取引様以外には、商標やその他ブランドに関する資産の利用許諾は行っていない」と回答した。

 差し替えまで1カ月近く使われたパロディーロゴが法令違反になる可能性はあるのか。

 東洋大法学部の安藤和宏教授(知的財産法)は、今回のロゴが著作権法に違反する可能性は低いと解説。その根拠として、ゲームの作品名には著作物性がないことや、イベントロゴに付けられたイラストも「FF」シリーズで似たものが見当たらない点などを挙げた。一方で、著名な商品名の無断利用を規制する不正競争防止法などに抵触する恐れはあるとし、「パロディーが出回ることでブランド価値が損なわれる懸念を会社側が抱けば、損害賠償請求に発展する可能性のある事案だ」との見方を示した。

 さらに、法的問題以外にも配慮する重要性についても指摘した。今回の場合、パロディーの対象が人気ゲームだっただけにネット交流サービス(SNS)での「炎上」など、訴訟以上にダメージを被る可能性があったという。安藤教授は「法的に問題がない場合でも、SNSユーザーたちが作品への『ただ乗り』であると見なし、炎上につながるケースは多い。過度に萎縮する必要はないが、リスクをよく検討せずに公開し、直前に差し替えた経緯を踏まえると、市の対応は軽率だったといえるだろう」と述べた。【李英浩】

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