船に載せられ、紀伊水道沖に運ばれるマッコウクジラ。この後沈められた=2023年1月19日午後2時35分、本社ヘリから
写真一覧

 大阪湾で死んだクジラの処理費を巡り、大阪市が厳しい批判にさらされている。当初の試算額の倍以上で海運業者と随意契約。住民監査請求を受けた市監査委員が、金額ありきで契約交渉が進められた疑いがあるとして、横山英幸市長に再調査を勧告する事態に発展した。

 クジラは体長約15メートル、体重約40トンの雄のマッコウクジラで、2023年1月9日、大阪湾の淀川河口付近で見つかった。市民から「淀ちゃん」と呼ばれ、市などが動向を見守っていたが、13日に死んでいるのを確認。処理を担うことになった大阪港湾局は、専門家から「体内にガスが充満し、爆発の恐れがある」との指摘を受けて処理を急いだ。

 港湾局は当初、地中への埋却も検討したが、候補地の夢洲(ゆめしま)は大阪・関西万博やカジノを含む統合型リゾート(IR)の開業に向けた整備が進行中。大阪府にも堺泉北港内への埋却を打診したが、地元との協議に時間がかかるとの回答を踏まえて断念し、最終的に沖合に沈める方針が決まった。海洋沈下は水産庁のマニュアルで「最も困難を伴う」方法として紹介されている。

 監査結果によると、港湾局は市内の海運業者に処理を依頼し、1月19日にこの業者が作業船でクジラを紀伊水道沖まで運んで海中に沈めた。作業を急ぐ案件だとして、入札を実施せず、業者との随意契約を進めた。この業者は処理の見積額として8625万円を示したが、港湾局は当初、3774万円と試算した。

 しかし、3月から本格的に始まった価格交渉の過程で、作業の特殊性などを踏まえた業者側の見積書に合わせる形で積算額を増やし、いったん7000万円になった。

大阪市のクジラ処理費を巡る主な経過❶
写真一覧
大阪市のクジラ処理費を巡る主な経過❷
写真一覧

 毎日新聞が入手した市の内部文書によると、大阪港湾局は3月24日、弁護士に相談。「相手と合意できると思われる7000万以上の積算案を作成したので確認してほしい」と求めた。弁護士は「見積額の検証が十分でない中、(業者側の)言い値で払うのはリスクしかない。特殊作業とはいえ、しっかりと適正価格かどうか検証するべきだ」と助言した。

 だが翌25日、業者との交渉役を申し出た港湾局幹部(当時)が「私の感覚では、できれば8000万円で持って行くべきだ」と局長らにメールで進言。業者側の意向に近付く形で8019万円での随意契約が決まった。

 こうした一連の経緯について、監査結果書は「港湾局に積算根拠を求めたが、業務委託設計書を作成していないことが判明したため、契約金額の妥当性を確認できなかった」と指摘。業者との随意契約に至った理由や手続きについては、クジラの処理に緊急性が求められたことから不合理な点は認められないとした。ただ、「業者選定の妥当性は多数の疑義が残る」と結論付けた。

 24年2月には、再び大阪湾に迷い込んだクジラが死んだ。この時は府が死骸を堺泉北港内の産業廃棄物処理場に埋却。吉村洋文知事は当時、「海に戻すよりはずいぶんと(費用が)抑えられる」として、一連の処理費は1500万円前後になるとの見通しを示した。

      ◇

 大阪港湾局の随意契約を巡っては、市入札等監視委員会が手続きが適正だったか調べているほか、弁護士らによる外部チームも調査する。23日、港湾局は市議会委員会で「契約金額は適正だった」と答弁。横山市長は報道陣に「一定の合理的な根拠をもって契約されているが、職員のやり取りや業者とのあり方など部分的に不適切なところがある。再発防止に努め、ご心配をおかけしている皆さんにおわびする」と述べた。【長沼辰哉、鈴木拓也】

市民団体、損害賠償求め提訴

住民訴訟の提訴に向け、大阪地裁に入る市民団体のメンバーら=大阪市北区で2024年5月23日‏‎午後1時57分、土田暁彦撮影
写真一覧

 住民監査請求した市民団体「見張り番」は23日、大阪港湾局トップや委託業者に8019万円の損害賠償を請求するよう市に求める住民訴訟を大阪地裁に起こした。市民団体側の代理人を務める坂本団弁護士は「業者ありきの判断ではなかったのか。払いすぎた費用は返すべきだ」と強調した。

 訴状によると、損害賠償の請求先は契約に関わった港湾局長や海務課長、経営改革課長の幹部職員3人に加え、マッコウクジラの遺骸処理を受託した大阪市の海運業者。積算根拠なく費用を増大させたとして、委託契約は違法で無効だと主張している。

 市民団体側は提訴後、大阪市内で記者会見した。団体共同代表を務める一柿(いちがき)喜美さん(76)は市の情報公開に対する姿勢について、「問題を小さくしようとしたり、隠そうとしたりする体質に驚いた。昔から何も改善していない」と批判した。

 代理人の松下聡弁護士は「高額な費用になるにもかかわらず契約した。特定の海運業者に委託するという結論があったうえで、手続きを進めたのではないか」と指摘した。【木島諒子】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。