大阪府警本部

 不正に開設した法人口座を悪用して犯罪収益を資金洗浄(マネーロンダリング)したとして、大阪府警が会社役員の男性ら12人を逮捕した事件で、グループが毎月約4億円の報酬を得ていたことが判明した。特殊詐欺の被害金などを犯罪収益ではないように処理する見返りとみられる。捜査関係者によると、グループは報酬を差し引いた後、東南アジアの国に開設された口座に資金を移していた。

 府警は、12人の容疑者らを、SNS(ネット交流サービス)などで結びついた者たちが離合集散する集団「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」とみている。資金洗浄を依頼した側にも、別のトクリュウが存在するかどうか調べる。

 不正な法人口座を悪用して犯罪収益210万円を隠したとして、府警は21日、富山市の会社「リバトン」の実質経営者、藤井亮平容疑者(41)ら男性12人を組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)などの容疑で逮捕した。

 グループはSNSを通じて勧誘した協力者らの名義で、経営実体がない約500法人を設立。約4000の法人口座を開設して資金洗浄に悪用したとみられている。

 府警がこれらの口座について、2023年1月から7月までの出入金記録を調べたところ、毎月100億円程度が入金されていることを確認。この間の入金総額は約700億円に上る。

 この間、毎月約4億円が犯罪収益の入金時などに差し引かれていた。府警はグループが資金洗浄の対価として受け取ったとみている。残りの資金は東南アジアの口座に移した後、最終的には依頼元であるトクリュウなどに還流したとみて、実態解明を進めている。

資金洗浄事件の構図

 資金洗浄は犯罪で得た資金について、捜査機関による摘発を免れる手口。他人や架空名義で作った金融機関の口座間で送金を繰り返すなどして、資金の出所や流れを隠し、正当な商取引などで得たように見せかける。

摘発件数は10年間で3倍以上に 対策急務

 資金洗浄(マネーロンダリング)は、ここ数年で増加傾向にある。特殊詐欺などで違法に得た収益を正当な資金として見せかけるため、「匿名・流動型犯罪グループ(トクリュウ)」などが必要としているとみられる。対策が急務だ。

 警察庁によると、組織犯罪処罰法違反で摘発した資金洗浄事件は2013年に272件だった。18年は504件、23年は888件と増加し、この10年間で3倍以上になった。放置すれば、トクリュウなどが犯罪収益を元手に活動を広げ、新たな犯罪を助長しかねない。

 資金洗浄対策の国際的な基準を定める政府間組織「金融活動作業部会(FATF)」は21年、日本の対策状況(19年時点)などを公表した。「多くの面でさらに改善の余地がある」として、取り組みの不十分さを指摘。厳罰化や、悪用が疑われる法人口座の確認強化などを求めた。

 こうした状況を受け、政府は22年12月に組織犯罪処罰法などを改正。同法の犯罪収益等隠匿罪の法定刑を「5年以下の懲役か300万円以下の罰金」から「10年以下の懲役か500万円以下の罰金」に引き上げるなどした。

 金融業界も対策を急ぐ。全国銀行協会は、協会が全額出資する新会社で、人工知能(AI)を用いて不審な金融取引を検知するサービスの提供を目指している。

 金融法務に携わり資金洗浄に詳しい鈴木正人弁護士は「法人口座は多額の出入金が頻繁に行われても怪しまれにくく、事件で使われやすいのではないか」と指摘。口座開設時に金融機関が企業情報を確認することに加え、「取引状況を分析するシステムを一層充実したり、口座の売買や譲り渡しが犯罪であることをさらに周知したりすることが必要だ」と話した。【小坂春乃】

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