公開中の作品から、文化部映画担当の編集委員がピックアップした「シネマプレビュー」をお届けします。上映予定は予告なく変更される場合があります。最新の上映予定は各映画館にお問い合わせください。
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「ゴジラ×コング 新たなる帝国」
痛快なアクションスペクタクルに仕上がっており、期待以上の出来栄えだった。
「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」(2019)や「ゴジラvsコング」(21年)は、秘密組織と米国政府が入り乱れた人間ドラマ部分がもどかしかったが、今回はヒロインの科学者と彼女が引き取った、キングコングと意思疎通できる少女との〝母子〟関係の行方にのみ焦点を置いて、シンプルだ。
あとは怪獣たちのバトルに専念する。コングが暮らす地下空洞に、驚異的な敵が潜んでいることが明らかに。コングは、これを倒すため地上に君臨するゴジラに共闘を求める。キッスの「ラヴィン・ユー・ベイビー」など、いなせで軽快なクラシックロックの劇中歌が気分を盛り上げる。
ただ、ハリウッドの怪獣デザインは相変わらず稚拙だ。今回の新たな敵は、たたずまいも含めて、これじゃあ西部劇か任俠ものか時代劇の悪役だ。
畳みかけるような〝怪獣プロレス〟は痛快だが、これがゴジラである必然性があるのかと思わないでもない。米映画。
26日から全国公開。1時間57分。(健)
「悪は存在しない」
「ドライブ・マイ・カー」で知られる濱口竜介監督の最新作。ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞した。
巧(大美賀均)と娘の花(西川玲)が暮らす自然豊かな長野県水挽町に、開発計画が立ち上がる。環境への影響は大きく、住民らに動揺が広がる。
濱口作品はいつも不思議だ。もともとスタッフだった大美賀らのせりふは棒読みに近い。それがなぜこれほど胸に突き刺さるのか。
石橋英子の音楽と映像も見事に調和。物語は単純な自然保護対開発という図式ではなく、開発側の苦悩も描かれる。悪は存在せず、無数の事情が人々を駆り立てているのだ。結末のやや唐突な展開も魅力の一つ。
26日から全国順次公開。1時間46分。(耕)
「システム・クラッシャー」
9歳のベニー(ヘレナ・ツェンゲル)は幼少期の虐待が原因で、怒りを制御できない。母や施設に見放された彼女に、非暴力トレーナーのミヒャ(アルブレヒト・シュッフ)は、電気もない森の小屋で3週間を過ごすよう提案するが…。
システムから逸脱し、疎外された少女の怒りと悲しみを描いたノラ・フィングシャイト監督の長編デビュー作。ベルリン国際映画祭で銀熊賞(アルフレッド・バウアー賞)を受賞した。
一瞬でベニーの強烈な個性に心を奪われる。凶暴さと幼さの二面性を、ツェンゲルが迫真の演技で表現。周囲は彼女の暴力と依存に疲れていく。愛を求めて叫び続け、居場所を失っていく姿が切ない。独映画。
27日から全国順次公開。2時間5分。(耕)
「エドガルド・モルターラ ある少年の数奇な運命」
ローマ教会による「エドガルド・モルターラ誘拐事件」の史実を、マルコ・ベロッキオ監督が映画化。権威主義に翻弄される家族の悲劇が描かれる。
19世紀のボローニャ。ユダヤ人一家の幼い息子、エドガルド(エネア・サラ)が枢機卿の命令で連れ去られた。赤ん坊の頃、キリスト教徒の使用人が無断で洗礼したことが理由だった。父(ファウスト・ルッソ・アレジ)は息子の奪還のため奔走するが、教皇ピウス9世は教義を盾に拒絶する。
「洗礼を受けたらキリスト教徒。ユダヤ教徒には渡さない」と主張する教皇らの偏執が恐ろしい。教会で家族から心が離れていく少年と、焦燥する父の姿が涙を誘う。伊・仏・独合作。
26日から全国公開。2時間14分。(耕)
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