「シャル・ウィ・ダンス?」の音楽に合わせ、踊る明日海りお(左)と北村一輝(東宝演劇部提供)

ミュージカル初出演となる北村一輝と、元宝塚歌劇団花組トップスターの明日海りおのダブル主演による舞台「王様と私」が9日、日生劇場(東京都千代田区)で開幕した。70年以上前の作品でもあり、西洋から見た19世紀シャム(現タイ)への偏見とも受け取れる部分を、翻訳・訳詞・演出を担当した小林香が、現代の観客も受け入れやすいようアップデート。もともと「シャル・ウィ・ダンス?」など名曲ぞろいなだけに、非日常感あふれる豪華な舞台に仕上がった。

今作で目を引くのが、オーケストラピット前に設けられたエプロンステージだ。生演奏で前奏曲が流れた瞬間から、客席にせり出すように光る舞台とともに、期待が盛り上がる。幕が上がってすぐに、帆船でシャムに向かう英国人家庭教師アンナ(明日海)が、真っ白なドレス姿で新天地への期待を歌い、観客とともに旅を始める。

王(北村一輝、右)とアンナ(明日海りお)は最初、反発し合う(東宝演劇部提供)

物語の舞台は19世紀後半のシャム。未亡人アンナ(明日海)が、王(北村)の子供らの家庭教師として赴任する。アンナは当初、王とことごとく対立するが、やがて心を通わせるようになる。

今作では、主演2人が本気でケンカする姿が見どころのひとつだ。欧米から独立を保つ王を、北村は華麗な衣装をまとって演じ、明日海が演じるアンナにも「頭が高い」などと絶対服従を求める。しかしそこは自立した権利意識の高い英国人女性だ。「ハラスメントです!」「約束を守ってください」などと反論し続ける。美しくも芯の通った職業人女性は、現代の女性も共感しやすいだろう。

1幕で、アンナが王の子供らと歌う「Getting to Know You(知れば知るほど)」は、異文化がぶつかり合う中で響きを増す。「♪あなたをもっと知れば 好きになって 好かれたくなる」。ここには、争いが絶えない現代に上演する意味や願いが込められている。

階段を活用した豪華な舞台セットで、シャムの王宮を表現する(東宝演劇部提供)

アンナが、シャムの妃らに「野蛮人と言わせないため」西洋のドレスを着せる場面など、今の価値観では違和感を覚える場面もある。ただ、舞台からは明日海を始め英国人役の俳優が、シャムの人々に愛情を持って接していることが伝わってくる。全体にもタイ文化への敬意がにじみ、後味の悪さはない。

クライマックスで登場する「シャル・ウィ・ダンス?」での北村と明日海のダンスは、どの瞬間を切り取っても絵になる名場面となった。階段を宮殿に見立てた美術(松井るみ)や衣装(有村淳)の豪華さも特筆したい。出演はほかに朝月希和、竹内将人、木村花代、中河内雅貴、今拓哉、小西遼生ら。(飯塚友子)

東京公演は4月30日まで、日生劇場。問い合わせは東宝テレザーブ(03・3201・7777)。大阪公演は5月4~8日、梅田芸術劇場(大阪市)。問い合わせは同劇場(06・6377・3800)。

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