1日で約6円急上昇した円

4月29日、昭和の日。GW前半、3連休最終日の穏やかな雰囲気とは裏腹に、円相場は大荒れの展開となった。

波乱の幕開けとなったのが、午前10時半すぎ。

外国為替市場で1ドル=158円台で取り引きされていた相場は瞬間的に160円台まで急落し、34年ぶりの円安水準を再び更新した。

円売り圧力が高まったきっかけが日銀の「ゼロ回答」だ。

市場では4月末の金融政策決定会合で、長期国債の買い入れ縮小や追加の利上げについての踏み込んだ発言など、日銀が円安進行に対して何らかのアクションを取るとの観測が広がっていたが、会合の結果は「現状維持」。

さらに、会見でのこのやり取りが一気に円安に拍車をかけた。

ーー植田総裁は先日の会見で、円安の進行によって基調的な物価上昇率に無視できない大きさの影響が発生した場合は、金融政策の変更もあり得るとお話ししました。今回、金融政策の変更がなかったということは、つまり円安の進行による影響は無視できる範疇になるというご認識でしょうか?

植田総裁
「とりあえず、基調的な物価上昇率への大きな影響はないと皆さん判断したということになるかと思います。ただ、そこに影響は今後発生するリスクはゼロではないので、注意してみていきたいということです」

ーーつまり(円安進行による)基調的な物価上昇率への影響は、無視できる範囲だったという認識でよろしいでしょうか。

植田総裁
「はい」

そして週明けの4月29日、ついに160円台を付けた円相場だがお昼を過ぎたあたりで突如“異変”が起きる。

1ドル=159円台前半で取り引きされていた円相場は午後1時すぎに急速に円高方向に進行し、155円台に。

その後、午後3時すぎにかけて157円台まで2円ほど円安が進んだが、午後4時すぎには再び154円台前半まで円が上昇したのだ。

1日で6円近く円高に振れる荒い値動きに為替のディーリングルームは騒然とした。

「為替介入を行ったのかーー?」

財務省2階にある財務官室の前に集まった報道陣の問いかけに対し、神田財務官は微笑みながら「今は、ノーコメントで」と発言。

翌日も「介入の有無について私から申し上げることはない」と述べるにとどめた。

「覆面介入」なら5兆円規模か

もっとも、市場では政府・日銀が為替介入の事実を明らかにしない「覆面介入」に踏み切ったとの見方が大勢だ。

4月30日に日銀が公表した統計も為替介入を示唆する内容となっている。

30日午後7時すぎに公表された5月1日の当座預金残高の見通しを見ると、政府と金融機関の資金の動きを示す「財政等要因」の増減がマイナス7兆5600億円となり、短資会社が予想していたおよそマイナス2兆円を大幅に下回った。

あくまで市場予想との比較のため、数千億円~1兆円程度の誤差がある点には留意が必要だが、日銀の見通しと市場予想の差額であるおよそ5兆円が円買い介入の規模と推測できる。

政府・日銀による円買い介入は2022年10月21日に実施した5兆6000億円が最大だが、これに匹敵するほど大規模な介入となった可能性がある。

実際に介入したかどうかは5月末に財務省が公表する4月26日から5月29日分の合計の介入額で明らかになる。

5兆円介入でも効果は息切れ気味

一時、154円台まで円高方向に進んだ円相場だが、アメリカ経済の堅調さを示す経済指標が相次いで発表されたことで、5月1日の東京外国為替市場では158円台目前まで再び円安が進んだ。

縮まらない日米の金利差に由来する円売り圧力の前に、仮に巨額の介入があったとしてその効果は早速、息切れ気味だ。

「効果としてはイマイチだったと感じる」

市場からはそんな声が聞こえてくる。

実際、2022年10月実施の介入では、約5円70銭押し下げ、下落率としては3.8%だった一方、今回の下落率は3.1%にとどまった。

これについて外為どっとコム総研の神田卓也調査部長は、「同程度の金額を使っても、前回ほど下げなかったとすると、円売り・ドル買い意欲の強さを再認識させることになるのではないかと危惧している」と話す。

介入資金に限界は?

市場では早くも介入資金の限界がトピックにあがり始めている。

円買い・ドル売りの介入では、ドルを売る元手に政府・日銀が持つ外貨準備が当てられる。

財務省によると、証券や預金、金など今年3月末時点でその総額はおよそ200兆円にのぼる。

ただ、そのうちすぐに使える預金は24兆円ほどに過ぎない。

2022年に神田財務官は保有国債などの売却も含め、「介入の原資は無限にある」と市場をけん制しているが、そう一筋縄ではいかなさそうだ。

というのも、アメリカ国債を売ると国債利回りの上昇につながり、アメリカ経済にも影響を与えてしまうため、アメリカ当局からの理解が得づらい。

そもそも市場介入について、イエレン財務長官は「極めてまれで例外的な状況でのみ認められる」とのスタンスを取っている。

さらに、アメリカの国債を売ることで長期金利が上昇した場合、日米の金利差が広がることから、かえって円安が進むという可能性もある。

今週もビッグイベント盛りだくさん!

今週後半にかけて、再び円安が加速する可能性がある。

市場が見極めようとしているのは、アメリカの中央銀行にあたるFRBの動向だ。

日本時間2日の未明に金融政策を決める会合の結果が公表され、パウエル議長が会見を行う。

このところ、経済の堅調さを示す指標が相次ぐ中、利下げについてどのような考えが示されるかが焦点だ。

仮に利下げに消極的な姿勢だった場合、再び160円に迫る展開となるかもしれない。

さらに、3日金曜日には雇用統計の発表も控えていて、政府と市場との神経戦が続きそうだ。

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