年収「103万円の壁」や、社会保険料の負担が生じる「130万円」の壁などが注目される中、今度は年金制度をめぐり、経済同友会がいわゆる“主婦・主夫年金”の廃止を提言しました。

■不公平という意見も…専業主婦らの年金「第3号」とは?

南波雅俊キャスター:
まずは公的年金の種類を振り返りたいと思います。

▼第1号被保険者(国民年金):自営業・学生など
▼第2号被保険者(厚生年金):会社員・公務員など
▼第3号被保険者:専業主婦・主夫など(第2号被保険者に扶養される配偶者)

今回、ポイントとなるのが「第3号被保険者」である、専業主婦・主夫です。この第3号というのは、第2号の会社員・公務員の扶養に入った配偶者などですが、配偶者が加入する年金制度が負担をするため、本人の保険料負担はありません。ただ、基礎年金のみ年金を受け取ることができます。

そのため、自営業や単身で働いている会社員・公務員などから「不公平ではないか」という声が上がっているということです。

「第3号被保険者」の制度は1986年にできました。1986年当時、共働き世帯数は720万世帯と少なかった。しかし、2022年には1262万世帯と500万世帯ほど増加しています。それに伴い、第3号の被保険者の数も、約1093万人から約676万人に減少しているという時代変化があります。

この変化があるという状況の中で各団体から様々な声も上がっています。

【廃止(5年の猶予期間)】
経済同友会 新浪剛史 代表幹事
「制度をしっかりさせて、これを廃止にしていく方向性をもってあるべきではないか」

【廃止(約10年かけて縮小)】
連合 芳野友子 会長
「社会保険制度はどういう立場・人生を歩んだとしても、公正・平等であるべき」

【将来的な解消へ(10年~20年後)】
日本商工会議所 五十嵐克也 氏
「時代に合わない世帯モデルをもとにしたものであって、不公平ではないかという指摘も根強い制度」

ホラン千秋キャスター:
ボリュームとしては「不公平ではないか」という声の方が大きいのでしょうか?

経済評論家 加谷珪一さん:
最近は、共働きの世帯や単身世帯が増加しているので、こういう方から見ると「保険料を払っていないのに年金だけもらえるのはどうか」という意見が出てきています。

一方、制度ができた昭和の時代は女性に働く機会があまりなく、「男性は無制限残業で頑張って経済を支えましょう」「だから内助の功の奥さんも働いているとみなして年金をあげます」という考え方は、当時は合理的ではありました。ただ今は、共働きや単身者も多くなってきています。そうなってくると、やはり制度の整合性が取れなくなってきている。そういう状況ではないでしょうか。

井上貴博キャスター:
世代によって大きく認識は異なるテーマだと感じています。個人的には時代に合わせて変化するのは当然だと思います。しかしその中で、第3号を廃止するにしても病弱な方や介護されてる方、働きたくても働けない、そういった人たちのケアをどうするのか、というのは並行してやらなければいけない。ただ廃止すればいいということではないんだろうと思います。

元競泳日本代表 松田丈志さん:
そもそも世帯をベースにした税制になっているので、これからは個人個人に対する税制度をしっかり作っていく。そして、例えば介護をしている人、子育てをしている人に対してプラスアルファの補助が出るような形で、もう少しシンプルにわかりやすくやってほしいなという気持ちがあります。

ホランキャスター:
税制度を個人ベースにしていくというのは流れとしては難しいことなんですか?

経済評論家 加谷さん:
基本的には政府もその方向性で進めたいと考えていて、できるだけ個人単位という流れではあります。

ただ、世帯全体で働けない人も支えるという制度が残ってる。一つひとつそれを直していかなければいけないので、少し時間がかかっていますが、方向性としては基本的に個人単位の制度に直して、そこの中でケアが必要な人はきちんと国がケアをする。そういう流れにしていくべきではないでしょうか。

井上キャスター:
世帯全体で働けない人も支えるという制度というのは、具体的に言うとどういうものがありますか?

経済評論家 加谷さん:
第3号被保険者以外には例えば、いま話題になっている「106万円の壁」などの「どのぐらい稼ぎ始めると社会保険料を支払わなければいけなくなるのか」とかですね。

こういった社会保障の分野の諸制度のほかに、「いくら以上稼いでる人からは税金を取るけども、それ以下の人からは取らない」などです。これも勤労者を中心に考えるのか、働けない人を中心に考えるのかで金額も変わってきます。

やはり税制と社会保障、全てセットでどうするかを考える必要があると思います。

■「第3号」→「第2号」に移行した場合の年金受給額イメージは?

南波キャスター:
もし仮に、いま第3号被保険者が廃止されたらどうなっていくのか。パターンは現状の制度に当てはめていくと、以下の2パターンになります。

▼第1号被保険者へ(国民年金に加入)
自営業など個人事業主が入っている国民年金に加入するという形で、年間約20万円の負担をする。

▼第2号被保険者へ(厚生年金に加入)
会社の正社員などになる、もしくはパートやアルバイトで年収106万円以上稼ぐ(従業員51人以上)。

では仮に、第3号から第2号に移行した場合はどのようになるのでしょうか。経済同友会の資料によると、年金受給額のイメージはこのようになっています。

▼第3号被保険者の制度が変わらずに続いた場合(20歳~60歳まで)
20歳から40年間年金を払い続けた場合は、もらえる額が年額約81万円です。

以下、第2号被保険者となって以降の年収を180万円(厚生年金保険料として年額約16万円を負担)と想定しています。
▼50歳から第2号に制度が変わった場合、約91万円。▼40歳からだと約101万円、▼30歳からだと約111万円となります。

どのタイミングで切り替わるかによって、もらえる年金の額も変わってくるということなので、生活設計にもいろいろ変化が必要になってくる可能性があります。

廃止はいつになるかということについて、加谷さんは「すぐに廃止するのはクリアすべき問題があるので難しい」と話していますが、何がポイントになるのでしょうか?

経済評論家 加谷さん:
一番の問題は、昭和の時代に、この制度を前提に生活設計をされた方が大勢いるということです。例えば高齢になってから離婚をされた方など、いろいろなケースが出てくるので、これを急に取り上げるのは問題があるでしょう。やはり、移行措置をどのぐらい設けるかがポイントだと思います。

あとは現実問題として、第3号被保険者はすごく減ってきています。放っておくとかなり少数派になってくるということもあるので、その時間軸を見ながら経過措置を設けるのか、あるいは自然消滅というような流れを前提に制度を組み替えていくのか。このあたりの議論をしていく必要があるのではないでしょうか。

ホランキャスター:
加谷さんは、どれくらいの期間の猶予を設けるのが適切だと考えますか?

経済評論家 加谷さん:
私は、最低でも10年ぐらいは猶予を設けるのが適切だと考えます。5年という案も出ていますが、インパクトが大きいので、もう少し長いスパンのほうがいいのではないでしょうか。

元競泳日本代表 松田さん:
やはり我々世代でいうと、正直、共働きでないともうやっていけないのが基本だと思います。かつ、男性も子育てをする場合はもっと育児に関わっていったほうがいいと思うので、やはり時短で働く正社員を増やしていけるような仕組みにしていき、男女ともに仕事を頑張れる状況を作っていってほしいと思います。

南波キャスター:
実際に厚労省も、年金部会でも将来的な見直しも含めて議論するということです。ただ、厚労省幹部は「3号がなくなると厳しくなる人もいるので、すぐに廃止するというものではない」とも話しています。

井上キャスター:
自民党は、家制度を大切にするという固い固い考え方でした。しかし、これでようやく少しずついろいろな税制度、社会保障制度が変わっていくのではないかと感じるニュースなのかもしれません。

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<プロフィール>
加谷珪一さん
経済評論家  元日経BP記者
著書に「貧乏国ニッポン」
中央省庁などへのコンサルティング業務も

松田丈志さん
元競泳日本代表
五輪4大会出場 4個のメダル獲得
JOC理事 宮崎県出身 3児の父

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