環境省の2022年の調査では、国内では1年間に80万トンの衣類が供給され、48.5万トンが廃棄されています。
廃棄されるのは「店舗での売れ残り」やリサイクルされずに捨てられる「家庭ごみ」など様々ですが、供給量の約6割が捨てられているという状況です。
この「大量廃棄」というファッション業界が抱える課題の解決を入口に、会社の成長や存続を図る企業の取り組みを紹介します。
11月、福井市内で循環型のファッションやライフスタイルを提案するイベントが開かれました。かつては北陸有数の繊維街として栄えた新栄商店街を会場に、約30の企業や団体が出展し、アップサイクルした服を販売したほか、リボンの端材を使ったアクセサリー作りや服を修繕するワークショップなどが行われました。
デニムを修繕したもらった子供は「すごいと思った。毎日履きたい」と感激した様子。父親も「捨てるのではなく、楽しいものに変わるのでいいなと思った。子供もワクワクしながら修繕していたのでまた機会があったら来たい。捨てずに使えるので良い」と話していました。
また「捨てるものはとても多く、それがほったらかしにされている現状があるので、活用する事はとても大事」と話す人もいました。
イベントを企画したのは県と福井大学、県内企業でつくるプロジェクト「ぐるぐるふくい」です。「繊維王国」とも呼ばれる福井の地から、繊維業界の循環型モデルを全世界に発信しようというプロジェクトには、全国展開する大手アパレルショップも賛同しています。
アーバンリサーチ担当者:
「“廃棄”という課題を解決したいとずっと思っていたところ、福井の人と出会った。福井の人たちと一緒に新しいものを生み出したり、地域の良さを発信していくことを自分たちも含めてやっていきたい」
勝山市の縫製会社「ラコーム」は「ぐるぐるふくい」に参加する企業の一つです。アパレルブランド向けのボトムスの縫製を行っていて、年間約10万着を製造しています。
ラコーム・織田研吾社長:
「生地が残らないよう設計をしていくが、どうしてもサイズやバランスの兼ね合いで生地のロスが出るし、生地を効率よく使うことで、余ってくる布がある」
商品製造後に余った布(残反)をメーカーが引き取ることはほとんどなく、ラコームではこれまで大量の残反を廃棄していました。
「(残反は)ロスなので生活に大きな影響を与えるわけではないが、未来へ向けた投資をし、どう利益を確保していくかを考えた時に、残反を活用して次の投資に回すことができないかと考えた」(織田社長)
“ごみ”として廃棄されていた残反を未来への投資にー
ラコームでは、これまで廃棄するまでの仮置き場だった倉庫を改装し、残反を使って自由に「服づくり」ができるスタジオを整備しました。製造が終わった商品から出た残反は、素材ごとに仕分けしてボックスに入れています。
業務用ミシンを配置し、オリジナルの刺繍や柄のプリントなどもできる本格的な工房です。服飾を学ぶ専門学校生に開放したり、社員による商品開発の場として使われたりしています。
織田社長は「知識や技術が仕事になるんだというのを体験してもらいたい」と話します。
並行して行っているのが、地元の小学校で行っている出張授業です。残反の提供だけにとどまらず、社員が家庭科の授業で縫製の楽しさを伝えています。
「縫製工場として就職説明会に出ると、閑古鳥なんです。でも学校で一緒に縫製をするとすごく興味を持ってくれるので、この差は何だろうと考えた。自分たちの仕事の本当の必要性を(伝える場を)確実に作っていかないと、人材確保と企業の持続性がないのではないか」(織田社長)
さらに織田社長は、残反を使った自社ブランドの立ち上げを計画するなど、これまで廃棄していた残反をフル活用して、お金のかからない投資を続けています。
「賃金や物価の上昇が課題となり投資に踏み込めない中で、これまで廃棄していた残反を活用できるのは、繊維産地である福井の強みではないか。この取り組みが未来への一歩になるのではないかと期待している」(織田社長)
業界の課題解決を、会社の存続や成長のための原資にする。繊維王国を支える企業の取り組みはこれからが本番です。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。