佐賀のものづくりを伝承する、地場産業11社によるローカルブランド「SAGA COLLECTIVE」。ブランド化の方法は〝二酸化炭素ゼロ〟だ。「シリーズSDGsの実践者たち」の第38回。

伝統産業で“二酸化炭素ゼロ”の商品を実現

有明海の海苔、有田焼などの陶磁器、手すき和紙など、多くの伝統産業がある佐賀県。それぞれの伝統産業を代表する企業が「佐賀の文化と伝統を、世界に向けて発信したい」と、2017年にローカルブランド「SAGA COLLECTIVE」を立ち上げた。2021年からは異業種の11社で協同組合を設立し、本格的なブランド化を始めている。

「SAGA COLLECTIVE」の最大の特徴は、すべての商品が“二酸化炭素ゼロ”で作られていること。カーボンニュートラルに取り組むことで、「佐賀から地球の未来を考える」サステナブルなブランドづくりを進めているのだ。

カーボンニュートラルの取り組みは、すでに成果を上げている。2021年度に各社の二酸化炭素排出量を計測。11社全体で1617トンの排出量が、削減を進めたことで2023年度には1315トンとなった。わずか3年で、排出量では約300トン、割合では18.7%も削減したことになる。

残った排出量は佐賀県の県有林のJ-クレジットや、佐賀県唐津市の藻場再生によるJブルークレジット®など、地元の自然に由来するカーボンクレジットを購入することで相殺。「SAGA COLLECTIVE」全ての商品で実質的に“二酸化炭素ゼロ”を実現している。

徹底した節電で二酸化炭素排出量を削減

11社のうち、独自でカーボンニュートラルを達成した会社は、すでに7社にのぼる。そのうちの1社が佐賀市諸富町に本社と工場がある家具メーカーのレグナテック。諸富町は隣接する福岡県大川市とともに、日本有数の家具産地として知られる地域だ。

レグナテック(佐賀市諸富町)

レグナテックでは年間270トンだった二酸化炭素排出量を、200トンにまで削減した。主な方法は節電だ。

レグナテックの工場

工場などの事業所では、30分間に使われた電力の平均値であるデマンド値によって契約電力が決まる。デマンド値が最も高かった30分間の使用量が、最大需要電力として契約電力に設定されて、基本料金を左右する。このため、最大デマンド値を下げることが、電気代を抑えるとともに、電気使用による二酸化炭素排出量を抑えることにつながる。

レグナテックでは節電にあたって、700本もの電灯をLEDに交換。大型の加工機械は稼働時間を短くすることや、複数の機械を同時に使わないなどの管理を徹底して、業務の効率化に取り組んでいる。その上でデマンド監視装置を導入し、一定の電力使用量を超えるとアラームが鳴るように設定して、最大デマンド値を抑えている。今年9月には再生可能エネルギーを導入しており、二酸化炭素排出量を大幅に削減する予定だ。

大型の加工機械は稼働時間を制限
デマンド監視装置

環境への取り組みは他にもある。加工によって出た端材はすべてリサイクルするほか、細かい木材のゴミは農家に無償で渡して、農家が牛舎に敷き詰める素材などに使う。また、おがくずを使ってカブトムシを育てて、地元の子どもたちに配るなど、森林資源を無駄なく活用している。輸入木材よりも輸送などで二酸化炭素排出量が抑えられる、地元の佐賀県産材を使ったオフィス家具の開発にも力を入れている。

端材はすべてリサイクル
佐賀県産材を使ったオフィス家具

海外進出の取り組みから“二酸化炭素ゼロ”へ

レグナテックの樺島雄大社長は「SAGA COLLECTIVE」の発起人で、現在の協同組合の代表も務める。2017年の発足当初は、県内の伝統産業が集まって海外進出を目指すことが目的だったと話す。

「恥ずかしい話ですが、佐賀県は『都道府県魅力度ランキング』などでよく最下位になっています。でも、佐賀で生まれ育った私としては、伝統産業もいろいろあるし、何でそんなに魅力がないのだろうと疑問を持つと同時に、不満に思っていました。そこで、イメージを変えるために新たな流れを作りたいと思い、異業種が集まってブランド化したのが『SAGA COLLECTIVE』です。国内だけでなく海外にもブランドを広めようと、シンガポールに売り込みに行ったのが始まりでした」

レグナテック 樺島雄大社長

ところが、2020年から新型コロナウイルスの感染が拡大し、海外での展示会が開けなくなった。そこで、SDGsなどについての勉強会を重ねながら、広告代理店など3社に新たなブランディングの提案を求めたところ、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科が提案したカーボンニュートラルによるブランディングを行うことで、会員企業の意見が一致した。

「会員企業には400年以上の歴史を持つ有田焼や、醤油や味噌、そうめん、酒造会社など100年以上続いている企業も多く、経営者の皆さんの自然環境に対する意識は高くなっています。地場産業をこれからも守っていくためにも、二酸化炭素削減は必要だと考えました」

2年連続で大不作となった有明海の海苔

11社の中には、地球温暖化の影響を深刻に感じている企業もある。佐賀市川副町に工場を構える三福海苔は、地元で養殖された質の高い海苔を使って、佐賀海苔の販売を行っている。

三福海苔(佐賀市川副町)

有明海は国内の海苔生産量の約6割を占める産地で、中でも筑後川が流れ込む川副町の広大な干潟では、2021年には全国の13%を超える生産量を誇っていた。最大で6メートルにもなる日本一の干満差によって十分な光合成ができることと、山からの養分を含んだ河川と海水が混ざり合うことで、高品質で旨みが強い海苔が取れている。

有明海の海苔養殖(三福海苔提供)

佐賀県自体も、2021年まで19年連続で海苔の生産量が日本一だった。ところが、約18億枚を誇っていた生産量は、2022年に9億枚に半減。翌2023年も同規模の生産量となり、2年連続の大不作となった。この2年間の生産量は兵庫県に抜かれている。

大不作の原因として考えられるのは、海水温の上昇と、海の栄養塩不足だった。三福海苔の川原崚専務は、海の変化を次のように説明する。

「海苔の養殖は、海水温が23度以下にならないと始めることができません。ここ数年は海水温が下がる時期が遅く、種付けの時期が遅くなりました。さらに今年は、海水温が思ったように下がらず、種付けがうまくいきませんでした」

三福海苔 川原崚専務

海苔の養殖は、海苔の胞子がついた牡蠣の殻を袋に入れて、海に設置した網に吊るす方法で行われる。

牡蠣の殻についた海苔の胞子

海水温が23度以下になると、海苔の胞子が飛び立って網に付着していく。しかし、昨年までの2年間は、海水温の上昇や栄養塩不足により、過去になかったような大不作となった。三福海苔の後継者として、2年後に事業承継を予定している川原専務は、この大不作によって危機感を強く抱いた。

「私は今34歳なので、少なくともあと30年は海苔の業界にいると思います。でも、さらに海水温が上がるとすると、30年後を考えたらぞっとするんですよね。海苔の産地にいるからこそ、この業界が廃れていくのは見たくないですし、守っていく責任があります。海の環境を守るために自分たちの若い世代が何とかしなければいけないと思っています。“二酸化炭素ゼロ”に取り組むことによって、少しでも引っ張っていける存在になっていきたいですね」(川原専務)

三福海苔では業務の効率化、海苔を保管する大型冷凍庫の最新型への更新、店舗や工場内にある照明のLED化などによって、二酸化炭素の排出量を2021年度の88.13トンから、2023年度の78.64トンまで約10%削減した。

三福海苔の工場
saga更新した大型冷凍庫

カーボンクレジットを購入して“二酸化炭素ゼロ”を実現しているものの、川原専務は「二酸化炭素の排出量そのものを減らしていきたい」として、現在は生産管理のデジタル化による業務の効率化を進め、今後は再生可能エネルギーの導入も検討している。

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