特集は名物ドライブインの休業です。店は長野県塩尻市の国道沿いで60年に渡ってドライバーの胃袋と心を満たしてきましたが、高齢化などを理由に無期限の休業に入ります。苦渋の決断をした店主、再開を願う客を取材しました。


国道19号線。塩尻から木曽方面に向かう途中にあるのが、レトロな佇まいの「食堂S・S木曽本店」。

昭和の面影を残すドライブインです。メニューはなんと150種類以上。


中でも人気なのが豚汁定食などについてくる「サバ煮」。

しょうゆベースの汁で、しっかり味がしみ込むよう二度煮込んであります。

客:
「うまいっすね」


にぎわう店内。

しかし、この光景もあとわずかとなりました。

店は4月29日から休業。

今のところ、再開のめどは立っていません。


店主は3代目の佐藤秀喜さん(73)。妻の秀美さん(71)たちと力を合わせて営んできましたが、60年の歴史に一区切りをつけます。

食堂S・S木曽本店 店主・佐藤秀喜さん:
「お客さまの笑顔が見られない、それが一番寂しいですね。お客さまが帰るときに『うまかったよ』と笑顔になって帰られる、それ見てるとやってよかったなって、疲れ吹っ飛んじゃいますから。それで毎日頑張ってきましたから」


店のオープンは高度成長期真っただ中の1964年・昭和39年。佐藤さんの父・進さんが開業しました。

店名の「S・S」は進さんのイニシャルです。

当時の客(2019年):
「温かいご飯と温かいみそ汁が食べられるのが一番」


店は国道を走るトラックの運転手たちに支持され、市内にもう一店舗、構えるまでになりました。

食堂S・S木曽本店 店主・佐藤秀喜さん:
「ご飯食べてほっとして、さあ、また運転していくかっていう、安らぎの場所にしたかった」


オープンから60年。この春、佐藤さんは「本店の休業」という苦渋の決断をしました。

理由は調理スタッフの高齢化。30年以上働くベテラン3人をメインに佐藤さん夫婦が補助していましたが、1人が3月退職。

営業継続が難しくなりました。


安藤かね子さん(73)は40年以上、調理全般を担当してきました。

40年以上勤務・安藤かね子さん(73):
「なんとも言えないけど、プツンと切れちゃう感じだね、気持ちがね。頑張って頑張って、おかげさまでやってはきたけど」

食堂S・S木曽本店 店主・佐藤秀喜さん:
「本来なら、もうちょっと続けてできるところまでやりたかったんですけれど、従業員の方の限界が来てしまって。長年このS・Sの味を担ってきて、ずっと守ってくれた人たちですから、それを引き継いでくって簡単なわけにはいかないんですよね」


4月24日午前5時すぎ―。

朝の開店準備はいつも通り。


朝の開店準備はいつも通り。

食堂S・S木曽本店 店主・佐藤秀喜さん:
「朝イチでおいしい炊き立てのご飯を食べていただきたいので毎朝、早く来て炊かないといけない(笑)」


朝6時に開店するとドライバーたちが次々と。

40年来の常連客・トラックドライバー:
「何とも言えない、この甘みがおいしいよね。家庭ではこうはいかない」

店の「休業」はー。

40年来の常連客・トラックドライバー:
「休業は困るな、本当に寂しいよね」

トラックドライバー:
「若い人が来てもらって継いでもらえたらいいな」


にぎわう店内。

昼は入店を待つ列ができるほどでした。

ファンはドライバーだけではありません。


30年通う地元の常連客:
「ちょっと休まれるということで、どうしても食べたいメニューがありまして」

待つこと10分ー。

男性が頼んだメニューは、昔ながらのしょうゆラーメンと定番の「サバ煮」とみそ汁などがついた「普通定食」。かなりのボリュームです。

30年通う地元の常連客:
「ここ来たら、これとこれですね。塩尻市民の心に残っている食堂だと思いますので、やっぱり(休業は)寂しい」


食堂S・S木曽本店 店主・佐藤秀喜さん:
「来る方、来る方が『やめちゃうの?』『本当にもったいない』『困っちゃうよ』とか逆に今この時期になると『頑張って次を探して早く再開してよ』という声も多く」

「閉店」ではなく「休業」にしたのは佐藤さんも後継者が現れることに希望を持っているからです。

建物を残して、「後継者候補」には広丘店で修業してもらい、いつか再開させたいと考えています。

食堂S・S木曽本店 店主・佐藤秀喜さん:
「早くまた再開してよと、それに本当に早く応えたいと思っている。また『再スタート』という形で今、考えてます」


夕方4時すぎ―。

早めの晩酌を始めたのは広島からやって来たトラックドライバー。群馬まで、片道900キロのロングドライブです。

広島からのドライバー:
「(この店は)心休らぐっすね」

ここで一杯飲み、車中泊するのが10年来の「お決まり」でした。

広島からのドライバー:
「最後に寄れると思ったので。(注文は?)おれは飲むばっかりなので、からあげとやまかけと梅クラゲとサバ。(サバは外せない?)ですね」


夜7時―。

夜のピークタイムを迎えました。


10年来の常連客・松本から:
「やっぱり名物ですから、これは食べておかないと」

ドライバーに地域住民。閉店まで、にぎわいは続きました。

子ども:
「(味は?)…」
「おいしいだって」


広島からのドライバー:
「次また広丘(店)でね」

妻・秀美さん:
「よくあっち泊っているもんね」

晩酌を終えた広島のドライバー。これからも広丘の店には立ち寄ると言います。

広島からのドライバー:
「おばちゃん、広丘(店)まで出るって言うから、まだ会えるけえ、大丈夫よ」

「おやすみなさい」


60年に渡って愛されてきたドライブイン。

営業は4月28日までです。


妻・秀美さん:
「普通なら途中で飽きてきたら他のお店にうつっちゃったりして当然なのに、そこまでして一生懸命通ってきてくれた人がいたことに、ありがたいなと。感謝感謝、何につけても感謝が出てくるようになった」


食堂S・S木曽本店 店主・佐藤秀喜さん:
「今まで本当に愛されてきたんだなと。誰かいい方がいたら続けてもらいたいという気持ちはあります。この「食堂S・S」という名前を背負って頑張ってもらいたい」

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