秋の褒章の受章者が発表されました。その道一筋に打ち込んできた人を称える「黄綬褒章」は4人、公共の仕事などで社会に貢献した人に贈られる「藍綬褒章」が4人です。11月6日の特集は黄綬褒章を受章する屋根板職人です。国宝や重要文化財の屋根に使われる「こけら板」を作って半世紀。文化財を守る職人の心意気を取材しました。
■すべて同じ厚さに
長野県大桑村にある大正元(1912)年創業の「栗山木工」。
小気味よい音が響く作業場。木の香りもしています。作られているのは屋根板として使われる「こけら板」です。
「へぎ包丁」と呼ばれる刃物で板を割っていくのは3代目の栗山芳博さん(76)。定規などを使わなくても全て同じ厚さです。
3代目・栗山芳博会長:
「コツというか、勘というか、目のなれだね。真ん中入れば、だいたいうまくいく。反復練習だな、繰り返し繰り返しな」
こけら板を作って半世紀以上。技と功績が認められ「黄綬褒章」の受章が決まりました。
3代目・栗山芳博会長:
「一番最初に聞いたときはびっくりした。周りの方々と一緒に働きながらやってこられたことは本当に、自分が表彰されたことは名誉なことで身が引き締まる思い」
■夜遅くまで働く両親の姿を見て育つ
栗山さんは3人兄弟の長男。夜遅くまで働く両親の姿を見て育ちました。
3代目・栗山芳博会長:
「いつ見ても働いてる姿、母と二人は夜なべで遅くまでやってる姿が焼き付いてて離れられない。今でも夜寝る時とか朝、浮かびます。(栗山木工を)なくさないで続けていかなきゃいけないという思いがだんだん高まってきた」
高校卒業後、家業に入りましたが当初、父親は進学を勧めたと言います。
栗山芳博さん:
「(父は)大学行って建築家とかそういう方がいいぞと、進路で相談した時に『えらいでな』って。(継ぐと言った時、父はどんな反応?)『あー、そうか』って言うだけ(笑)、心の中では喜んでたかもしれん。頼まれてやったやつと自分からやるって進んできたのでは違う」
■京都・西本願寺の国宝「御影堂」も
屋根に葺く「こけら板」。
芝居などの初公演を「こけら落し」と呼ぶのは、屋根に残った板を落として初日を迎えたことに由来します。
栗山木工は多くの国宝や重要文化財の「こけら板」を手掛けてきました。善光寺山門の「平成の大修理」。この時も栗山木工のこけら板で屋根が葺き替えられました。作った板は18万枚。1年余りは休日返上だったそうです。
国の重要文化財・上田市の前山寺 三重塔のこけら板も。
映っているのは栗山さんの弟・光博さん。実は兄弟3人とも職人となり、会社を盛り立ててきました。
栗山さんが一番の思い出と語るのは京都・西本願寺の国宝「御影堂(ごえいどう)」の仕事です。板の上に瓦を葺く工法が取られ、外からは見えませんが、作った板の数は、なんと。
栗山芳博さん:
「28万枚くらいだった。工期が短くて、削るなら寝る時間しかないもので、今なら信じられないわな。段々と遅くまで延ばしていった。(夜)8時になって、8時半、9時、10時、12時。いっぺんに延ばせないので、やっぱり体続かないので(笑)。幸せなことですね、文化財に携われる。先祖さんが長年やってきて、それが続いてきてるから『栗山さんどうですか』って話になってくる」
この日、作っていたのは桂離宮にある「月波楼」のこけら板。4万枚から5万枚を作る予定です。
使うのは樹齢250年から300年の木曽のサワラ。軽くて柔らか、さらに水にも強く屋根板にぴったりの材です。それを厚さ3ミリまで「等分」に割っていきます。
栗山芳博さん:
「最初は真ん中いかない。全然、こんな方、行っちゃったり、いろいろした。真ん中を見る、そうすれば真ん中入れば、あとは手が動いていくもんで、反射神経だな」
■4代目も父の背中を追いかけ
10年ほど前に会社を受け継いだ4代目の弘忠さん(49)。
弘忠さんも父の背中を追いかけ大学卒業後、家業に入りました。
4代目・栗山弘忠さん:
「(父は)とにかく真面目なコツコツというか、そんなにしゃべる人じゃないけど、一生懸命、仕事している姿はよく見ていました。20何年間、父親というよりも自分の師匠というか、先輩である人が認められるのは素直にうれしい」
■期待の若手も
栗山さんの隣で作業をするのは入社7年目の木戸智裕さん(24・木曽町出身)。
期待の若手です。
木戸智裕さん(24):
「見学に来させてもらった時に単純にかっこいいなと思ったし、自分が働いてる姿が一番想像できたので、ここにしようと思った」
栗山芳博さん:
「一生懸命だね、体力あるし、若いし。慣れてきたし注意することはないな」
■技をつないで文化財を守る
栗山さんによりますと、木曽の屋根板業者はかつて10軒ほどありましたが、今は栗山木工も含め2軒。職人の高齢化も進んでいます。
技をつないで、文化財を守る。栗山さんの仕事はこれからも続きます。
3代目・栗山芳博会長
「私の姿見て、みんなが励みになってくれればと思って体が動く間中は頑張って、文化財のためにも若い人は養成していかないと。どっちかというと、うち、地味で裏方だし、そういうことが好きだってそういう人が来てくれればうれしい」
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