大阪府に本社を置き、テレビなどを製造してきた「船井電機」。海外に進出し『世界のFUNAI』とも称されましたが、今年10月、東京地裁からの破産手続きの開始決定を受け、従業員約550人が解雇されました。経営破綻に至るまで巨額の資金流出があったということです。

 11月14日、元環境大臣で9月に船井電機の会長に就任した原田義昭氏がMBSの単独取材に応じました。船井電機に何があったのか──。東京商工リサーチや西村雄大弁護士に取材した内容なども含め、まとめました。

カリスマ創業者によって成功企業に 船井電機の歴史

 今回の“破産劇”。キーパーソンとなるのは、カリスマと呼ばれた船井電機の創業者・船井哲良氏、船井電機を買収した上田智一氏、そして破産手続きに反対している船井電機会長の原田義昭氏の3人です。

 この船井電機の始まりは1951年、船井哲良氏が大阪でミシンの卸問屋を創業しました。その後、1961年に船井電機を設立し、トランジスターラジオがアメリカで爆発的なヒットとなりました。1985年にはテレビデオの販売を開始し、北米で6割を超えるシェアを獲得します。ちなみに、家庭用のコードレス電話機を発明したのも船井電機です。

 海外でも活躍しています。アメリカの有名なスーパーマーケット「ウォルマート」と取り引きがあったほか、メジャーリーグのチーム「レッドソックス」のスポンサーだったことも。

 大成功の背景にあったのは、創業者である船井哲良氏の存在です。1927年に神戸市で生まれた船井氏は、1990年代、“日本の人件費は高い”ことから中国に生産拠点を置いて北米に輸出する事業を展開しました。格安で高性能なテレビが受けて、売り上げは一気に拡大。その後、大手家電メーカーをしのぐ利益率を達成するカリスマ経営者に成長していきました。

 では、成功企業だった船井電機に何が起こったのでしょうか。

船井氏の死去後…外部経営者が社長に 素性の知れない役員も

 2008年、船井氏が社長を退任をします。そして2010年ごろから中国・韓国勢との価格競争に巻き込まれます。2014年~2017年に社長は4度交代しました。さまざまな見方がある中で、船井氏がカリスマ的存在だった故に、なかなか後継者を見つけることができなかったのではないかということも言われています。

 2017年に船井氏が死去すると、創業家は“経営のプロ”である外部の経営者に頼るようになります。これが衰退の物語の始まりなのかもしれません。

 2021年、出版社が船井電機を買収し、上田智一氏が社長に就任しました。この買収については、船井電機にとってリスクの高い買収だったのではないかとも言われています。2023年には大手脱毛サロン会社を買収しますが、翌年には売却しています。

 上田氏は外資系コンサル出身で、創業者・船井氏の仲良しだった人物が連れてきた人だそうです。上田氏は船井電機の上場を廃止していますが、ここにどのような意図があったのかはわかりません。

 そして今年5月、“素性の知れない”役員4人が就任します。東京商工リサーチによりますと、この4人が船井電機と何か関係がある人物なのかがよくわからず、船井電機の社員にとってもどんな人物でなぜ役員になったのかわからないのではないかということです。船井氏が作り上げてきた船井電機から大きく動きが変わったということが言えます。

 9月に上田社長と役員が退任しました。退任の理由は明かされていません。そして10月、従業員約550人が一斉解雇されました。

破産を申し立てたのは『創業家の1人』

 まだ不明点も多い“異例づくし”の破産劇。通常とは大きく違うところがあるようです。まず、会社が倒産状態になった場合、事業を続けるのか終わらせるのか、この2択を迫られます。東京商工リサーチによりますと、船井電機ほどの規模の会社なら事業を続ける選択をするのが通常だということです。

 事業を続ける場合は、民事再生(再生計画を提示・再生後に負債返済)か会社更生(役員総入れ替えで再出発)という方法があります。しかし今回は事業を終わらせる破産手続きへと舵を切りました。

 さらに異例な点は、この破産手続きは全会一致で行われたものではないということ。船井電機の取締役の1人が「準自己破産」を申し立てたのです。この人物は後から入ってきた役員ではなく、創業家の1人です。

 西村雄大弁護士によりますと、準自己破産とは、取締役などが個人で申し立てる破産手続きのことです。破産の申し立てをしたいが取締役会の同意が取れないなどの場合に、破産手続きを開始して法人格を消滅させる手続きです。

 なぜそのようなことをする必要があったのか?これについて東京商工リサーチは、外部経営者と創業家一族との対立があったのではないかと見ています。素性の知れない役員たちにこれ以上、船井電機の資産を使われたくなかったのではないかということです。

 その資産について、船井電機をめぐっては、実は多額のお金が消えています。MBSが入手した破産手続開始申立書によりますと、債務超過(返せないお金)は117億6900万円、流出したとみられる資金は約300億円です。この約300億円は大手脱毛サロン会社の買収・資金支援や、関連会社への貸付金などで消えていったということです。買収される前の預金は347億円ありましたが、破産申し立て時は“ほぼなし”ということに。

原田会長「びっくりしたのが事実」 船井電機を存続させたい考え

 なぜこんなことが起きたのか?今回、今年9月に船井電機の会長に就任したばかりの元環境大臣・原田義昭氏に単独インタビューすることができました。原田氏は破産手続き開始決定の取り消しを求めています。

 船井電機の会長になったいきさつについては、もともと法的相談を受けていたと話したうえで、次のように述べました。

 (船井電機会長 原田義昭氏)「8月末に『ちょっと会社がきついんだ』『先生 応援してくれませんか』と言うから、(法理相談を受けていたので)当然のことながら『できる範囲でやるよ』と。ある時期に『代表取締役会長をお願いします』と言われて、私も当初はびっくりしましたけど、船井電機さんの思い入れにお応えするのが男の道かなと思った」

 取締役会での議決を経ずに1人の取締役が準自己破産という形で破産申し立てをしたことについては…

 (原田義昭氏)「びっくりしたのが事実です。お互いの連絡体制、ガバナンス(統率力)が欠けていたかなと。どんな時でも一丸となってひとつの目標のために突き進もうというのが欠けていた」

 破産の申し立て書に記載されている300億円もの資金流出については…

 (原田義昭氏)「多少の不正みたいなものがあったようにも感じています。不正というか、そのときの経営の判断を含めて、評価はあると思います。中には不正という言葉を使われる人もいるが、私自身は(不正と)決めずにとにかく再結束をしようと一生懸命努力をしているところです」

 従業員への給与未払いについては、支払うよう段取りをしていると話します。

 (原田義昭氏)「(Q船井電機にまだ資産はある?)あると見ています。旧経営陣に反省してもらうことはたくさんあります。それを乗り越えて、破産という形でこの名門の船井電機を終わらせるわけには絶対にいかない」

 インタビューの中では、今回の出来事を新聞・テレビで見て驚いたというような発言もありました。ただ、旧経営陣らを強く非難するような言葉はありませんでした。そして「必ずこの企業は再生できる」と話していました。

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