ニチレイフーズが力を入れるワンプレート商品。外食などと比べて値頃感がある点が強みだ(記者撮影)

スーパーで特売の目玉となり、割引セールが行われてきた冷凍食品。ギョーザや揚げ物、冷凍野菜といった定番商品にとどまらず、最近は高単価商品のジャンルが広がっている。消費者から”コスパ”を求められてきた冷凍食品のイメージが変わりつつある。

2023年に大ヒットした「香ばし麺の五目あんかけ焼そば」(実勢価格398円前後)。うっすら焼き目の付いた麺に、大きめにカットした6種類の野菜を絡めたあんをかけて食べる冷凍食品だ。発売元の冷食大手ニチレイフーズによると、昨年9月の発売から翌月10月で100万食を突破した。

昨年10月には女優の今田美桜さんを起用したテレビCMも投入。野菜が多く入ったあんかけ焼そばは、女性客にも購入されている。冷食としては高価格帯ながら、商品力と売り場づくり、マーケティングがかみ合って生まれたヒットだった。しかし開発の現場は、発売直前まで試行錯誤の連続だったという。

冷やし中華に続く戦略商品

「発売前の昨年7月から8月は胃がキリキリする思いだった」。そう振り返るのはニチレイフーズのライン&マーケティング戦略部・蟹沢壮平氏だ。

同社は2022年に春期の目玉として冷凍の「冷やし中華」を投入し、発売から約半年で200万食の大ヒットを記録した。レンジで温めても冷たく仕上がる独自技術を採用し、構想に約5年、商品化まで約3年を要したチャレンジ商品だ。冷やし中華に次ぐ戦略商品として、あんかけ焼そばの開発を進めてきた。

あんかけ焼そばを選んだのは、冷凍食品の中で麺類は発展途上で伸びしろが大きいから。ただし強力なライバルとしてマルハニチロの「五目あんかけ焼そば」が存在した。冷凍食品の人気投票「フローズンアワード2023」(食品総合卸の日本アクセス社が実施)で麺類部門1位を獲得した王者である。

商品を担当する蟹沢氏は「しっかり焼き目を付け、香ばしいという点にこだわった」とポイントを語る(記者撮影)

開発のハードルは高かった。ライバル商品と差別化したうえで完成度が高く、市場を広げる商品が求められた。

販路となるスーパー側のメリットも必要だった。ほかの中華麺やラーメンよりも売れて、他社商品を棚から蹴落とす実力を備えなければならない。「100%の確信を持って出さなければだめだと考えていた」と蟹沢氏は語る。

ライバルと差別化、王道で勝負

開発スタッフはさまざまなレストランを食べ歩き、モニター調査も行いながら味の方向性を固めていった。結果、中華レストランが監修するライバルと差別化し、しょうゆとオイスターソースがベースの王道の味で勝負することに決めた。豚肉と野菜の具材のおいしさを引き出し、あんはやや甘めにするなど、男性だけでなく女性にも好まれる味を目指した。

重視したのは、麺にしっかり焼き目を付けて香ばしくすること。ラボでの試作品では焼き目を付けられたが、実際に山形工場のラインで生産すると、思うように焼けなかった。現場に緊張が走った。

焼き目は新商品の重要な特徴で、決して妥協できない。機械をゆっくり動かすことで焼き目を付けられたが、量産には不向き。現場は試行錯誤を繰り返し、季節はすでに夏になっていた。

あんかけ焼そばのあんと麺のトレイは二層構造になっている(記者撮影)

9月の発売を前に営業からは具体的な注文数が飛んでくるが、注文量に到底届かない。結局、効率よく焼き目を付けるための調整は発売直前まで続き、なんとか出荷にこぎ着けたという。

営業側も発売前に試食などを通じ、競合と戦える自信作であることをスーパー側にアピールして協力体制を構築していた。

売り場ではニチレイの看板商品「本格炒め炒飯」と並べて打ち出した。炒飯は発売から23年間カテゴリーのトップをひた走るロングセラーで、炒飯のファンにあんかけ焼そばをアピールする作戦だった。

目標はロングセラー商品

発売後、あんかけ焼そばは好調に売れ続け、工場の生産も軌道に乗ってきた。今後はさらに認知を広げるために定期的なプロモーションを実施し、顧客満足度調査を基にした細かな刷新も重ねていく考えだ。

蟹沢氏は現在の商品について「生産してみないとわからないこともあった。本当に狙っていた味に向けて、これからも改良を重ねたい」と話す。ニチレイには改善を繰り返してきたヒット商品「本格炒め炒飯」のノウハウがある。次なる目標はロングセラーへの定着だろう。

ワンプレート分野において、ニチレイは複数品目を盛り込んだ商品にも力を入れる。「三ツ星プレート グリルチキントマトソース&カルボナーラ」「三ツ星プレート 厚切りベーコンのグラタン&オムライス」といったラインナップだ。トレイのまま食べられる1人前の商品は、高齢化や単身世帯の増加などを背景に需要が強まっている。

あらゆる食品が値上がりする中、消費者の選別の目は厳しくなっている。その中で、ワンプレートの冷凍食品は優位なポジションにある。

値上げ後に販売が伸びる商品も

消費者のニーズについて、同社執行役員・家庭用事業部長の清川吾朗氏はこう分析する。「簡便、タイムパフォーマンスは間違いなく大事なポイント。その中でもワンプレートは重要な戦略商品。400円台後半など高めの商品を投入しても、今はスーパーのお弁当も600~700円程度なので、冷凍食品を選んでもらえる」。

ニチレイも複数回の値上げを実施したが、販売数量を落とさず、むしろ伸びる商品もあった。外食、中食などと比較して値頃感があるわけだ。

もちろん競合のニップン、ニッスイ、マルハニチロなどもワンプレート商品は重点的に強化している。冷凍食品は簡単、便利で高単価を狙える商品群で成長の余地がある。安かった冷凍食品の逆襲が、これから一段と過熱しそうだ。

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