(ブルームバーグ):空が白み始めるとそこかしこに散乱する前夜の余韻。酔いつぶれて歩道に横たわる人や、空き缶、空き瓶の横にしゃがみ込んで始発が動き出すまでの間、最後の一滴を惜しそうにすする人たち。渋谷にはそんなイメージがつきまとう。
街の象徴でもあるスクランブル交差点の反対側が羽目を外したい人々のたまり場になったのはずいぶん前のことだ。だが、散らかった余韻の後片付けをする側(がわ)にしてみれば悪夢だ。トラックが要るほどの缶やビン、タバコの吸い殻などを毎朝拾い集めるのは、地元住民らで営むボランティアグループだ。
そんな渋谷で条例が改正され、今月から駅周辺では午後6時から翌朝5時までの間、公共の場での飲酒が禁止された。違反者への罰則規定はないが、条令の改正にかかわった区議たちは、他の地域の手本になるような効果を期待する。
施行された1日、区長の長谷部健氏は夜間の路上がパブのようになってしまったと嘆きつつも、新しいルールを周知するイベントで「路上飲みが渋谷の文化ではないと発信していきたい」と力強く語った。
条令改正で路上パトロールは平日が8人から10人に、週末は13人から18人に増員される。渋谷区危機管理対策部安全対策課長の東浦幸生氏によると、予算面では今後6カ月で約2000万円の増加となる。
路上飲酒NGの動きは広がりを見せる。ハロウィーン期間中の路上飲みを渋谷区が禁止し、歌舞伎町に流れた人々による迷惑行為が増えたことから、新宿区はハロウィーン期間中の路上飲酒を禁止する条令を議会で可決した。
日本人もポイ捨て
新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、政府が訪日外国人客(インバウンド)の受け入れを再開すると、為替のドル高を追い風に世界中から人が押し寄せ、今年は訪日外国人の数が過去最多を更新する勢いだ。
渋谷は外国人観光客に人気の旅先の一つでもあるが、国内メディアはたびたび路上飲みによる空き缶のポイ捨て問題とインバウンドを結びつけて報道することがある。果たしてそうだろうか。
渋谷センター商店街振興組合の鈴木大輔常務理事は、「インバウンドが増えて路上飲酒が増えたわけではない」と話す。インバウンドを敵対視する報道は多いが、ポイ捨てする日本人も多いという。渋谷は路上で酒を飲んでもいいという妙な誤解が生まれたのは、外国人観光客だけのせいではないという。
街の中心部に近い場所で彼の話を聞いていると、通りからよく見える路地裏で誰かが立ち小便を始めた。それを見ながら鈴木氏は「ここにはもっとやるべきことがたくさんある」と続けた。
施行初日
施行日の渋谷の街には、人の波をかき分けながらパトロールする警備の姿があった。彼らは路上飲みを見つけては止めるよう話し、空き缶のポイ捨てをさせないために袋を渡してまわった。多くは協力的だが、驚いたのは声をかけられたグループのうち日本語が分からないのは1組だけだったことだ。
渋谷駅を出てすぐの通りの入り口に友人同士で遊びに来ていたグループがいて、そのうちの半数が飲みかけの酒の缶を持っていた。英語で新しいルールを説明すると、彼らはすんなりそれらを手渡した。
「ルールが悪いとは思っていない。私たちはそれを知らなかっただけだ」。こう話すスペイン出身のイシマエルさんは、日本での滞在日数を尋ねられると「ここに住んでいる」と答えた。
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