(ブルームバーグ):石破茂首相の利上げに慎重な発言を受けて、市場では日本銀行による年内の利上げ観測が後退し、円が急落している。衆院選をにらんだハト派的な発言との指摘もあるが、金融政策の正常化を進める日銀に政治の逆風という悩ましい要素が加わった。

石破首相は2日、政策金利の引き上げに関して「政府としてあれこれ指図をする立場ではない」としながらも、「個人的には現在そのような環境にあるとは思っていない。追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と語った。

自民党総裁選の期間中の発言などから、日銀の独立性を尊重する石破氏は金融政策の正常化にも理解を示すとみられていただけに、首相就任後の発言を受けて市場では円安が急速に進んでいる。自民党総裁選出後に一時1ドル=141円台に上昇した円相場は、足元では1カ月ぶりの水準となる147円台まで売り戻されている。

石破首相の発言の狙いについて、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の六車治美チーフ債券ストラテジストは、27日投開票を表明している総選挙をにらんだものとみている。年内に利上げするのは政治的時間が短い上に国民からの理解を得るのも困難であるとし、想定している12月会合での追加利上げの確度はやや低下したのではないかと述べた。

石破内閣の支持率は岸田内閣発足時を軒並み下回った。報道各社の世論調査では共同通信が50.7%、日本経済新聞が51%、読売新聞が51%など。共同通信によると、調査手法が異なるため単純比較はできないが、最近の内閣発足時の支持率は2021年10月の岸田内閣が55.7%、20年9月の菅内閣が66.4%、12年12月の第2次安倍内閣が62.0%だった。

石破内閣支持率、岸田政権の発足時下回る-各社世論調査

みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは3日付リポートで、石破内閣の支持率が近年の内閣と比べ低い水準でのスタートとなったことを背景に、 衆院選に向けて、首相が日銀の早期追加利上げ観測をけん制して円安や株高を促すことは「窮余の一策という面もある」とみる。一方で、石破氏首相が「いつまでも日銀に圧力をかけるというわけではない」とし、来年1月の利上げを予想した。

植田総裁は2日の首相との会談後、金融政策運営について「極めて緩和的な状態でわが国経済をしっかり支えていく」との考えを表明。経済・物価が日銀の見通し通りに実現し、見通しに沿って経済が動けば「金融緩和度合いを調整していくことになるが、本当にそうかどうかを見極めるための時間は十分ある」と述べた。9月の記者会見での発言内容から「変化はない」とも説明した。

衆院選という大きな政治イベントをにらみ、一般的には不人気な利上げに対する理解者との印象を払しょくするのが狙いとの見方だ。もっとも、一段の円安進行は輸入物価の上昇を通じた消費者物価の押し上げ要因となり、物価高対策と矛盾する。日銀は7月会合で円安に伴う物価上振れリスクの高まりも理由に利上げを行っており、難しい状況に直面する可能性がある。

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