(ブルームバーグ):自動車の量産に必要な型式指定を取得する認証試験での不正が発覚したトヨタ自動車の豊田章男会長への信任に反対する動きが国内の機関投資家にも広がっている。開示が出そろいつつある今年の株主総会の議決権行使結果では強い調子で非難する社もあり、来年以降の同氏の続投に不安を残す結果となった。

ニッセイアセットマネジメントは豊田氏を含む取締役候補10人全員の選任について、「重大な反社会的行為に関する基準に該当」するとの理由で反対した。重大な不祥事は社会の信頼を失うだけでなく、市場評価や企業価値低下を招くと考えており、取締役の選任議案で「厳しく対応」しているとした。

豊田章男会長

機関投資家を含む国内の「金融機関・証券会社」はトヨタの株主の40%近くを占める最大勢力。今後の動向次第では豊田氏が経営トップの座を追われる可能性もある。豊田氏自身も7月、国内機関投資家の反応について自社メディアで「この1年の私の振る舞いで要は半分の方がやめてくださいよといっていること」との見方を示し、「このペースでいくと来年は取締役としてはいられなくなる」と述べた。

三菱UFJアセットマネジメントは、豊田氏のほか早川茂副会長と佐藤恒治社長の取締役選任にも反対した。ダイハツ工業などグループ企業での不正に関して同社の監督責任は重く、「グループガバナンスに対し警鐘を鳴らす必要がある」との判断から代表権を持つ3氏の再任に反対したという。

創業者である豊田喜一郎氏の孫にあたり、2009年の社長就任以来トヨタの経営を担ってきた豊田氏だが、グループ企業も含めた認証不正などの影響で長く90%超を維持していた定時総会での取締役選任案への賛成率は23年に84.57%、今年は71.93%まで低下した。中でも海外の機関投資家の賛成率は33.6%と低く、国内機関投資家も55.3%と70%を超えていた昨年から急減したという。

企業統治に詳しい東京都立大学大学院の松田千恵子教授は、株主総会での取締役選任に際して機関投資家が独自の基準を設ける動きはここ数年で急速に広まり、今では国内大手はほぼ基準を持っていると指摘。以前は海外勢に比べて企業側に「甘い」といえる部分もあったが、現状は必ずしもそうではなく、その差も縮まっているようにも見えると述べた。

「社会に深刻な影響」

三井住友DSアセットマネジメントなどは豊田氏と早川氏の選任に反対。同社は佐藤氏を賛成とした理由について、社長や取締役就任から間がなく、事案に関する責任は問わなかったとした。

 

同じく豊田氏と早川氏の選任に反対した富国生命投資顧問はグループ会社での不祥事を受けて実施した会社側との対話を踏まえて昨年は賛成としたが、その後も不祥事が発生し、「社会に深刻な影響を与えている」として反対に回った。

豊田氏の選任に賛成した金融機関も少なくないが、トヨタの不正への対応を判断したり、経営陣との対話の場を持ったりした上で結論を出したケースが目立った。

日本生命保険は会社側との対話を通じて、原因究明や責任の所在の明確化、再発防止策の策定などについて「対応済みであることが確認できた」として豊田氏を含め取締役全員の選任案に賛成したとしている。

「例外的に」賛成

日興アセットマネジメントは、トヨタが打ち出した風土改革や企業文化の醸成策を前向きに評価。経営トップによる改革の完遂を期待して「例外的に」賛成した。三菱UFJ信託銀行は取締役全員の選任案に「特段問題なく、賛成」したという。

評価が割れていることについて松田教授は、不正基準の場合は再発防止などの状況も考慮することや前年度以前の不祥事をどこまで追及するかなどについて明確に判断できず、判断の余地が若干あるように思われると述べた。

その上で、国内の機関投資家は「作った独自判断基準を機械的に当てはめすぎていないか」という点が気になるとした。

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