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 命を守るための医療器具が今、存続の危機にある。先日、Xで「『鉗子』というものが最近注文してもなかなか入ってこなくて困ってます。聞いてみると作る職人さんが高齢化で引退してしまった、後継者もいないとかで全然生産が追いついていないみたいです」という投稿が話題になった。

【映像】医療用はさみ製造の現場 機械化が困難な作業も

 生産の実情を探るべく、『ABEMA Prime』は都内にある田辺医科器械製作所を訪れた。田辺正さん(70)が作っているのは医療用の「はさみ」。耳鼻科や眼科、外科、形成外科などで使われている。

 この道50年の田辺さんは1人で、様々な形状のはさみを月200本作っている。用途に合わせて厚みや形、ズレなど、目や手触りを頼りに1本ずつ調整。こうした作業は機械化が難しく、熟練の技が必要とされる。現在、はさみ職人は全国に10人ほどしかおらず、多くが高齢者で後継者もいない。

 極めて珍しい症例の手術に、職人が作った特殊な器具が使われることもあり、近い将来、供給ができなくなることが危ぶまれている。

■鉗子職人「私の知識は教えるが、来る人がいない」

 血管や臓器を挟んだり剥離したりする「鉗子(かんし)」の製造現場も、人手不足に悩んでいる。鉗子職人の木村敏克さん(67)は、1950年創業の「木村製作所」2代目社長。かつては木村さん含め従業員が5人いたが、現在は一人親方で弟子もいない。約15年前の最盛期は、年間約5000本の鉗子の製作や修理を手掛けていたが、現在は約2000本になっている。

 鉗子は、鉄を研磨しサイズを調整した上で、1000度に熱し、油に入れ硬くして焼き戻すなどの工程を経て、計4日間かけて製作される。「ほんの数ミリの差で硬さが変わるので、気をつけながら削る。引っ掛けるところや筋を入れたりすると工程が6〜8つほどになり、時間がかかる。ハンマーで叩いて柔らかさの感触をつかみ、タッチを覚えながら品物の味を出していく」。

 日本鋼製医科器械同業組合の調べによると、昭和50年代に250あった事業所は現在、51社に。医療器具を作る職人は昭和50年代の約300人から43人に減少し、その年齢層は60代以上が全体の65%を占める(いずれも組合に登録している数から)。

 職人不足の背景には、「高齢化」「安価な輸入品の台頭(主にドイツ製やパキスタン製)」「術式の変化(低侵襲)」などがある。術式では、内視鏡下手術の増加でそもそも開腹する手術が減少したことや、従来は手術して初めてわかった病状が検査段階でわかるようになり、手術が減少したことが要因となっている。

 技術の伝承について、「私の知識は教えるが、来る人がいない」のが現実だ。「毎日叩いて、いじることが大事。数字的に『何年で習得できる』ではなく、一度覚えればあっという間にできると思う」。また、「良い機械を買いたくてもなかなか手に入れられない」と、収入面にも課題があるようだ。

 日本製の特徴は、仕上げ技術の良さ。“切れ味が良い”ことは、治癒の短期化で患者の負担減につながる。また、“手に馴染む”ことにより、術者の疲労低下にもなる。木村製作所の鉗子は5000円だが、海外製だと2500円。「(卸の)店を経由して、病院へは1万円で売られることも。病院が高い製品を買ってくれない場合もある」と明かした。

■職人不足解消に必要な取り組みは

 職人不足解消に向けて、後継者を育成する取り組みも行われている。手術器具の販売を手がける「マイステック」代表取締役の金井しのぶ氏は、医師と職人が直接交流・情報交換できる場を、リアルとオンラインで創設した。

 職人や独立を目指す人たちのために設立した工場は、工作機械を備えた作業場が利用できる(光熱費込み月6万円、時間貸しも可)ほか、受講者が指導料を支払うことでベテラン職人から学ぶこともできる。趣味や副業として始めたい人も歓迎。開設にあたっては、「同業組合の理事長が古い工場を提供してくださった。東京都のインキュベーション(施設運営計画認定)事業にも採択され、一部費用はそこで援助してもらっている」という。

 金井氏は職人不足の弊害として、わずかな症例の手術に必要な特殊な器具の供給ができなくなることや、日本発の新たな術式の開発に必要な器具の試作ができなくなることなどをあげている。「理解してくれる医師はいるが、道具を買うのは個人ではなく病院」のため、職人の仕事ぶりや使い手のメッセージなどをコンテンツ化して、積極的にPRすることで、海外展開も狙っている。

 脊椎に関する手術を年間約400件行っている岩井医療財団の古閑比佐志理事は、協力的な医師のひとりだ。10月の医師が集う学会で、職人が作った医療器具を展示し触れてもらい、積極的に日本製を使用する医師が「魅力」について講演することなどを計画している。

 また、医療器具を展示したカフェをつくる構想もある。医師やメーカーが器具に触れ、試し使いできるスペースを用意することで、情報交換もでき、ニーズ発掘の場になる。さらに、オリジナルの手術器具を考案・開発・販売したいと考える医師の存在も。設計・試作・製造販売を支援し、医師に利益還元できる仕組みの実現に向け、現在は準備中だということだ。

 こうした空間づくりの先に、金井氏はどんな未来を描いているのか。「やりたい人が入ってきて、できる人が続けていく。入口を広くすれば、職人は残っていくと考えている。ここからトライしていきたい」と語った。(『ABEMA Prime』より)

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