貿易やサプライチェーンはどうなるのか。トランプ前大統領が再選した場合のトランプ2.0を意識した動きが世界で出始めている。
「トランプ2.0」に身構える世界 ~USスチール買収の行方は!?~
バイデン大統領:
USスチールは1世紀以上にわたりアメリカの象徴的な企業だった。今後も完全にアメリカ企業であり続けるべきだ。
演説に拍手を送っているのは、日本製鉄によるUSスチールの買収計画に反対しているUSW(全米鉄鋼労働組合)の組合員。バイデン大統領がUSWの本部で買収反対の姿勢を改めて鮮明にした背景には、“この人”の存在がある。
トランプ前大統領:
日本製鉄がUSスチールを買収するのはとても恐ろしいことだ。私なら即座に絶対に阻止する。
USWの本部があるペンシルベニア州は、大統領選の勝敗を左右する激戦州で、トランプ前大統領との大接戦が予想されている。州内だけで5万人もの組合員を抱えるUSWの支持が欠かせない。
更なる支持獲得のため、バイデン大統領はこの日、もう1つ労働者に寄り添う姿勢をアピール。中国政府が鉄鋼メーカーへの多額の補助金により過剰な生産を行い、鉄鋼価格の下落を招いていると指摘。中国製の鉄鋼とアルミに課している制裁関税を現在の3倍に引き上げることを検討すると正式に表明した。中国への関税を引き上げ、国内産業を保護する姿勢は、トランプ氏が掲げる「アメリカファースト」への対抗意識が透けて見える。
「トランプ2.0」に身構える世界 ~どうなる?貿易・供給網・温暖化~
ニューヨークのトランプタワーを訪れたのはポーランドのドゥダ大統領。トランプ氏が再び大統領に就任する可能性を視野に入れたとみられる各国首脳の動きが相次いでいる。
岸田総理も、アメリカのトヨタやホンダの現地工場を視察。アメリカでの雇用を重視するトランプ氏へ日本の貢献をアピールする狙いがあったとみられている。来週には麻生副総裁が訪米する予定で、トランプ氏との会談を検討しているとみられている。
「もしトラ」が「ほぼトラ」に変わってきて、世界中でいろんな影響が既に出始めている。その代表が、日本製鉄のUSスチール買収劇。
――バイデン大統領は、USスチールの買収に関して反対に傾いているのか?
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
選挙キャンペーン中の発言は、あまり一喜一憂しなくてもいい。むしろ正式に出した「大統領声明」での言葉遣いがとても大事で、トランプ前大統領のように「阻止する」とか「反対する」という言葉を使わずに、微妙にギリギリ否定的なことを明確に出すという苦肉の策だ。
――「国内で所有する運営されるアメリカ企業であり続けることが大事」というところがポイントで「国内で所有」と言われると日本製鉄のアメリカ子会社が所有すればいいとか?
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
そこは今の段階で明確にする必要もない思う。むしろこういう言葉で余地を残していくことが大事だ。
――カギは日本製鉄とUSWの交渉がどうなるかということか。
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
決してUSWも完全に否定しているわけではなく、潰れてしまったら、本当にアメリカにとって、そして自分たちにとっていいのかという議論もある。もっと言えば一番の大口の客は自動車業界。アメリカの自動車業界はどう見てるかというと「ぜひ日本製鉄と一緒になって技術を磨いて、いいものを安く供給してくれよ」と。1年前にクリーブランド・クリフスというアメリカ国内第1位の会社が買収しようとして、USスチールから拒否された。一緒になったら、完全に1社体制になって自動車鋼板の値段が高くなる。それは絶対「No」だと。
――アメリカの自動車メーカーは買収には賛成で、自動車メーカーで働く労働組合も賛成かもしれない。アメリカ国内の色々な駆け引きも見ながら、まだまだわからないと。
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
たくさんプレーヤーがいて、その中で多元連立方程式を解いているという作業だと思う。
注目の大統領選挙の支持率は、4月16日時点でトランプ氏が45.2%、バイデン氏が44.9%と、トランプ氏がリードしていた状況からほぼ互角となった。
――トランプ氏が返り咲く可能性は、それなりにあると見ておいた方がよいか。
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
それに対する準備を日本だけでなく各国もやっているので、備えを今からしておくことがとても大事。
――初めて当選したときより、トランプ氏がどういう人かというのはわかってきた?
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
選挙民であるアメリカ国民にわかりやすい言葉を使っているのは事実。それだけクリアカットなだけにものすごく荒っぽい。それをどうやって閣僚たちがちゃんとした政策にするか、相当修正していくプロセスが始まる。キャンペーンの言葉だけで、一喜一憂する必要もない。ただし、大きな方向性、例えば「関税」という道具を使って相手を叩くとか、そういう大どころは、共通だと思う。わかりやすい。
「トランプ2.0」のポイントをまとめた。まず貿易。トランプ氏は1期目を見ると、あまり多角感、多国間の考え方はなく常に2国間の関係で物事を見て、勝つか負けるか、ディールするかしないか、関税を上げるか下げるか、そういう発想でアプローチしてきそうだ。
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
同盟国・同志国、仲間であっても、同じようにやる。日本に対しても「関税」という道具を振りかざして、これを収めるための取引をする、このパターンをヨーロッパに対しても、いろんなところに対してもやる。手法が違わない。
「トランプキャンペーン」の公約。貿易では関税の引き上げが考えられる。ほとんどの外国製品を対象にした一律関税「普遍的基本関税」の導入。また外国がアメリカに課している関税がアメリカより高い場合に同率まで関税を引き上げる「相互貿易法」の創設。さらに中国に対しWTO(世界貿易機関)の優遇措置の取り消しなどが挙げられている。
――選挙運動の中でトランプ氏は中国への関税を60%にするとか、日本にも10%の関税をかけたらどうかと言っている。
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
1期目にやって、味をしめた。成果があったと思っている。(トランプ政権下の)ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は、当時、茂木大臣と交渉して、日米貿易協定を結んだ。2023年のライトハイザー氏の著書にも書いてあるが「大成果だった。日本から(関税で)脅しをやったら、あっという間にその成果を上げた」と。片やアメリカ側の自動車の関税は一切手をつけてない。「その後交渉する」と当時の大臣は説明していたが、その手形は落とされてない。そうやっていい思いをしたから、同じ手法をまた出してくる可能性はある。
――貿易の次は投資。中国に対する投資、あるいは中国からの投資を規制していこうという動きは今後も強まっていくか。
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
投資の問題はトランプ政権だけでなくバイデン政権も、今議会の中が対中強硬で、中国に対する投資、中国からの投資、双方向ともに規制を強化しようという動きになっている。だからヨーロッパもどちらの政権になってもそういう議論をしている。ここで問題は日本。日本だけがこの分野では後ろ向き。2023年のG7でも、日本だけが「中国投資は全部規制するのではなく、先端技術のところにだけベンチャーキャピタルなどがお金を資金援助するということをおさえられないか」という発想。後ろ向きな構図の中、日本はどうするのかということが問われると思う。
続いて心配なのは、温暖化対策。EVや再エネルギーなど普及などを推進する「インフレ抑制法(IRA)」の廃止。そしてパリ協定からの再離脱などが挙げられる。
――EVへの補助金とか再エネ普及のための補助金で日本企業もあてにして対米投資をしているので、廃止といわれると混乱を招くのでは?
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
そうだと思う。特にEVを優遇するということに対しては、強烈な拒否反応を示している。パリ協定の離脱というのも可能性が高くなる。
――いろんな変化に、今から備えておくということが必要なのか。
明星大学 経営学部 教授 細川昌彦氏:
「関税引き上げ」というのは全部WTO違反だが、お構いなくやる。なにか言われたら「WTOから脱退する」という勢いだから、ルールがだんだん無視されていく。この世界に対して日本はどうやっていくのか、他の国、第3国とのタッグをどう組んでいくのか、今から十分準備しなければならない。
(BS-TBS『Bizスクエア』 4月20日放送より)
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細川昌彦 氏
1977年~2006年 経済産業省米州課長など歴任。鉄鋼・自動車など日米の通商交渉を最前線で担当。近著『暴走トランプと独裁の習近平に、どう立ち向かうか?』。
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